〝古賀魂〟で大躍進だ! 柔道競技7日目(30日、日本武道館)、女子78キロ超級決勝で素根輝(21=パーク24)がオルティス(キューバ)を下し、金メダルを獲得した。同階級では2004年アテネ五輪の塚田真希以来、4大会ぶり2人目の快挙。これで今大会の柔道日本勢の金メダル数は男女合わせて9個となり、アテネ五輪の8個を抜き史上最多に。自国開催の大一番で好成績を残した裏には、ニッポン柔道の思いを一つにした「346ウオッチ」の存在があった。

 これがニッポン柔道の強さだ。順調に勝ち上がった素根は決勝でオルティスと対戦。2012年ロンドン五輪金メダルの女王にも攻めの姿勢を貫き、約9分に及ぶ熱戦の末、指導3つを奪って反則勝ちだ。女子では史上3人目となる全日本選手権、世界選手権、五輪を制する「柔道3冠」を成し遂げた。

 素根は「とにかく先に攻めようと思った。絶対に負けないという気持ちで臨んだ。この大会のために練習を頑張ってきたので、それを出せてよかった。本当に頑張って来てよかった」と涙ぐんだ。

 素根らの活躍により日本勢は個人男女14階級で男子5個、女子4個と合計9個の金メダルを奪取。史上最多となる金ラッシュでまさに神がかり的な大躍進ぶりだが、日の丸戦士たちを後押ししたものがある。

 今大会は選手、監督、コーチがそろってカシオ製の白い腕時計「Gショック」を着用した。実はこれ、3月に53歳で急逝した1992年バルセロナ五輪男子71キロ級金メダルの古賀稔彦さんの追悼モデルだという。

 カシオ社の広報担当者がこう説明する。

「柔道の日本チームに弊社から100本ほど提供しました。ベースは白を基調としたGW―M5610MD―7JFですが、腕のバンドには古賀さんが大事にしていたお言葉『克己復礼』や古賀さんの愛称『平成の三四郎』からとった3、4、6と日本国旗が刻印されています。時計の裏ぶたには『TOSHIHIKO KOGA』のレーザー刻印が施されています」

 実際に、この日も全日本男子の井上康生監督やスタンドで試合を見守った男子60キロ級金メダルの高藤直寿(パーク24)らが〝古賀モデル〟の腕時計を着けていた。

 時計の制作を依頼したのは、古賀さんの弟分でバルセロナ五輪男子78キロ級金メダルの吉田秀彦氏(パーク24総監督)だ。本紙の取材に応じた吉田氏は「古賀先輩が五輪に対していろいろと強い思いを持っていたので奥さん(早苗さん)と相談して、カシオさんにデザインしてもらって、選手全員、コーチ陣、監督に古賀先輩の思いを一緒に背負って戦ってほしいってことで、奥さんと僕からプレゼントした」と明かした。その上で「全員が時計をしてくれていたので、うれしかった」と神妙に語った。

 時計に記された「克己復礼(こっきふくれい)」は、私情に打ち勝ち規範や礼にかなった行いをするという意味だが、この4文字には古賀さんの特別な思いが込められているという。

「これは奥さんから聞いた話なんですけど、古賀先輩が娘さんに送った言葉なんですよ。その言葉が一番いいんじゃないかなと。やっぱり礼儀正しくって部分が柔道の基本ですから」(吉田氏)

 礼を重んじ、勝負に徹した〝平成の三四郎〟の思いを背負った選手たちはそれぞれの力を十二分に発揮し、最高の結果を届けた。吉田氏は「あんまりこうやって言うのはよくないかもしれないが、古賀先輩の思いが伝わったのかなと思いますね。本当に作ってよかったなと思いますね」と声を震わせた。

 古賀さんは素根が1年ほど在籍していた環太平洋大で総監督を務めていた。個人戦最後の日に教え子が見事に金メダルを獲得。不滅の〝古賀魂〟は後輩たちにもしっかりと受け継がれた。