やはり絆は深かった――。東京五輪の柔道男子60キロ級(24日、東京・日本武道館)で高藤直寿(28=パーク24)が金メダルを獲得。2016年リオデジャネイロ五輪で銅メダルに終わった悔しさを見事に晴らし、家族に最高のプレゼントを届けた。

 長男・登喜寿くんが運動会を終えた昨年のある日の出来事だった。

「あれ、なんで金じゃないの? こっちは金メダルだよ」

 自宅のリビングの一角には、高藤がこれまでの大会で獲得した数々のメダルが飾られている。一番目立つ場所には、悔しさを忘れないためにも、リオ五輪の銅メダルを置かれている。しかし、小学生となり、父の職業やメダルの価値が少しずつ分かるようになった長男にとっては、銅メダルを目立たせる配置に疑問を覚えたのだろう。

 かねて金メダルを目標としていた高藤。息子のひと言を聞いて「息子に本物の金メダルを見せてあげたい。五輪だけ別で飾っているメダルが銅なので、何でかなと思ったのかもしれない。銅メダルから金メダルってところを大切にしたいと思うので、東京五輪の金メダルを前に飾って、リオ五輪の銅メダルを後ろの背景として飾りたい」とより金メダルへの思いが強くなった。

 今度こそ必ず金メダルを――。「練習をしまくった」と自信を持って畳に上がった高藤は、3試合連続の延長戦を制するなど、最後まで粘り強い戦いを披露した。決勝後には、すぐさま息子に連絡。「いつもは全然関心を持たないが、泣きそうになるくらい応援してくれたらしい。帰っていじめてやろうかなと思っている」と満面の笑みを浮かべた。

 妻への〝おねだり〟もモチベーションの1つだった。ゲーム好きで知られる高藤は、大会前に「最高の金メダリストにふさわしいゲーミングPC(パソコン)がほしい。試合が終わったら思い切りやりたい」と宣言。妻に対して「金メダルを取ったら、好きなようにすると言っている」と話しており、交渉成立のためにも勝利が必須だった。

 理由はどうであれ、家族の存在が高藤にとって大きなプラスになっているのは間違いない。「家族のサポートがあって今の僕がある」。家族一丸でつかみ取った世界一の座。やっと目立つ場所にも金メダルを置くことができる。