【ロシア・チェリャビンスク31日発】柔道世界選手権男子100キロ超級で6連覇を達成したロンドン五輪金メダリストのテディ・リネール(25=フランス)が10億円オファーを蹴っていたことが本紙の取材で明らかになった。世界最大の米国総合格闘技団体「UFC」が2度にわたって交渉を持ちかけたものの、リネールは拒否。その裏には意外な理由が隠されていた。

 決勝で七戸龍(25=九州電力)と対戦したリネールは、終盤、七戸の大内刈りに冷や汗をかかされたものの、ポイントを与えることなく「絶対王者」の牙城を死守した。 世界選手権6連覇は女子48キロ級の谷亮子(旧姓田村)以来の偉業。国際大会でも2010年世界選手権無差別級決勝で上川大樹(24=京葉ガス)に敗れて以来、55連勝と無敵の強さを証明した。リオ五輪に向け「七戸は強力なライバルになる」と話す一方で、「金メダルは俺だ」と不敵な笑みを浮かべた。

 そんな最強の男は、柔道界以外でも引っ張りダコだ。中でも破格のオファーで“ドラフト1位指名”したのは、ダナ・ホワイト社長(45)率いるUFCだ。リネールは「去年、UFCから10ミリオン(1000万ドル=約10億円)のオファーを受けた。USドルで、ワンマッチ契約だった。でも、ボクは断ったんだ」と本紙に明かした。

 日本で空前の格闘技ブームを巻き起こしたPRIDE最盛期でも、1試合10億円はありえない数字。リネールによれば、UFCは2年前に初めて契約を持ちかけ、その時は「4ミリオン(400万ドル=約4億円)」だったという。1年でファイトマネーが2倍以上にハネ上がったことを考えれば、今回の6連覇で20億円を超えてもおかしくない。

 現在、UFCは慢性的なスター不足に直面している。特にヘビー級は現WWE世界ヘビー級王者の“怪物”ブロック・レスナー(37)が離脱し、かつてのような盛り上がりは見られなくなった。そこでリネールを獲得し、活性化を図りたかったに違いない。だが、リネールはどれだけ札束を積まれようと、総合格闘技に転向するつもりはないという。

「だって美しいスポーツじゃないからね。たくさんケガもするし、子供にも良くないよ。だいたい、ボクは体に傷がつくのが好きじゃないんだ。フフフ」

 巨万の富を捨ててでも柔道家としての誇り、姿勢を守り、リオ五輪での2大会連続金メダル獲得にバク進するリネール。あと一歩まで追い詰めた日本勢だが、この男を倒すのは、やはり容易ではなさそうだ。