【柔道世界選手権】3連覇海老沼 地獄の仏修行で精神力培った

2014年08月27日 16時00分

【ロシア・チェリャビンスク26日発】柔道世界選手権2日目、男子66キロ級はロンドン五輪銅メダルの海老沼匡(24=パーク24)が3連覇を果たした。日本男子では100キロ級で2003年まで3大会を制した井上康生以来5人目で、軽量級では初の快挙。海老沼はドン底生活を糧にし、16年リオ五輪での金メダル取りへ大きく前進した。

 

 決勝の相手は準決勝で高市賢悟(21=東海大)を破った地元ロシアのプリャエフ。完全アウェーのムードに包まれたが、海老沼は動じない。最後は鮮やかな内股で一本勝ちし、日本柔道界に金字塔を打ち立てた。

 

 4月の選抜体重別選手権で高市に敗れ、井上監督から3週間のフランス武者修行を提案された。海老沼は即諾したが、現地での生活は孤独との闘いだった。空港に着くと迎えは来ない。練習時間も知らされない。歓迎ムードはなく、最初の3日間で会話したのは練習先の先生だけ。日本の恵まれた環境とは何もかもが違った。エリートから一転、ドン底に落とされた海老沼は「友達づくりから始めてどうにか生きていける力を見つけられた」と歯をくいしばって耐えたという。

 

 パーク24の吉田秀彦監督(44)は「いろんな意味で精神的に大きくなった。柔道以外の部分で、だいぶ鍛えられた」と成長を実感する。3連覇も異国で得た収穫が後押しした。古根川実コーチ(35)は「うまいこといかない時に発想を切り替える。自分でそこを乗り越える。経験は試合で生きてくる」。準々決勝では不可解と思える判定の連続で、ゴールデンスコアにもつれた。しかし、海老沼は窮地を自力で切り抜けた。

 

 五輪でメダルを取ろうが世界選手権を連覇しようが、海老沼の姿勢は常に挑戦者だった。練習ノートを欠かさず続け「ボクが一番強いと思ったことは一度もない。試合で勝った人が一番強い」と断言する。高市に敗れたことを海老沼は感謝している。「これでまた強くなれる」。満たされることのない強さへの探究心が、3連覇の偉業達成を支えていた。

 

 そして古巣の「魂」も海老沼を支える。数々の五輪金メダリストを輩出し、海老沼も中学、高校を過ごした柔道私塾「講道学舎」が来年2月、その歴史に幕を下ろす。「6年間お世話になったところ。すごい伝統がある。さびしいですね。講道学舎で育った誇りを持って戦います」。世界選手権で海老沼は「学舎魂」と描かれた深紅のタオルを持参した。厳しい練習で知られた講道学舎は、柔道の楽しさを再確認させてくれたフランスとはまさに対極だった。しかし、海老沼は苦笑しながら胸を張った。「でも、『やらされる練習をしている人』は強くなりますよ」

 

 66キロ級はリオ五輪に向け、し烈な代表争いが続く。高市に加え、ユース五輪金メダルの阿部一二三(17=神港学園)も台頭している。しかし、ライバルの存在が、またこの男を強くする。3連覇は通過点。「表彰台で国歌を聴き、本当に五輪で金メダルを取りたいと思った」。ロンドン五輪での悔しさを晴らす日まで、海老沼の精進は終わらない。

 

 ☆えびぬま・まさし=1990年2月15日生まれ。栃木県出身。5歳から柔道を始める。世田谷学園、明治大と柔道の名門を歩み、パーク24所属。11年に世界選手権を初制覇。ロンドン五輪で銅メダル。世界ランキングは6位。得意は背負い投げ。170センチ。