【ロシア・チェリャビンスク25日発】期待のニューヒロインがニッポン柔道を救った。柔道の世界選手権が開幕。昨年金メダルゼロに終わった女子は48キロ級で世界ランキング18位の近藤亜美(19=三井住友海上)が初出場初優勝の快挙。素顔は「巨漢フェチ」のミラクル娘が南條充寿監督(42)の引責辞任を阻止した。

無限の可能性を秘めたミラクル娘が、初の大舞台でいきなり結果を出した。3回戦で前回覇者のムンフバット(モンゴル)を破ると、決勝も攻め続けてパレト(アルゼンチン)に優勢勝ち。「最後まで楽しんですごくいい試合ができた。(2日目に)しっかりつなげられた」。斬り込み隊長の役目も果たした19歳は、小さな手で顔を覆った。

 昨年、女子は暴力・パワハラ問題の影響が直撃し、22年ぶりに金メダルゼロの屈辱。南條監督は「(続投は)金メダルがないなら厳しい」と今大会に進退をかけた。昨年12月のグランドスラム東京大会で優勝したものの、近藤の実力は未知数。起用に疑問の声もあったが「思い切った柔道を大舞台でもできるのが持ち味」と励ました南條監督の期待に見事に応えた。

 谷本歩実氏(33=コマツ)、吉田秀彦氏(44=パーク24監督)ら多くの五輪金メダリストを輩出した愛知の名門・大石道場出身。谷本氏を目指し、一本を取る柔道を心がけてきた。ただ、その急成長ぶりには中学、高校と6年間指導した大石公平監督(39)も驚くばかり。

「昔は一回(気持ちが)折れると、どこまでも…ってなったんです。それが高校3年生の講道館杯(11月)あたりから、とたんにかみ合いだしました。最後のピースがパチッと揃ったような感じは覚えています」。勝ち続けると調子に乗る悪い癖もあったが、近藤が6月のグランプリ・ブダペストで3位に終わったことで「勝っていたら肝心な大会が不安になる」と大石監督は“吉兆”を予感していたという。

 同じ日の高藤に対抗意識を燃やすなど大の目立ちたがり屋。さらに“巨漢フェチ”の一面も持つ。父、祖父に相撲の経験があり、近藤も小学生の時、ちびっ子相撲で土俵に上がった経験がある。しかも「彼氏候補」は巨漢が条件、結婚したい理想のタイプには迷いなく横綱白鵬(29=宮城野)を挙げる。

 6月のスペイン合宿ではそんな近藤のハートに火をつける出来事も。白鵬を身長で12センチ上回るロンドン五輪100キロ超級金メダルのテディ・リネール(25=フランス)へのボディータッチに成功し「ごつくて硬かった。おなかいっぱいです…」と瞳をうるうる。乱取りも目に焼きつけ「外国人は細かい技術を使わず投げるんですけど、細かい技術があるのがあの人の強さ。無敵って言われるのは名誉なこと。少しでもああいう選手に近づきたい」と“女リネール”襲名に意欲を見せた。

 2016年リオ五輪に向け、弾みのつく待望の優勝。「金メダルはすごく大きくて重いが、実感が湧かない」。初々しさ満点の近藤がどん底に落ちた日本の女子柔道に、光を照らした。

☆こんどう・あみ=1995年5月9日生まれ。愛知県出身。5歳で柔道を始めた。愛知・大成高3年だった昨年に高校総体を初制覇し、グランドスラム東京大会も初優勝。今年は4月の全日本選抜体重別選手権を初めて制した。世界ランキング18位。得意は内股。155センチ。