世界の山下が語る「リネール攻略法」

2014年08月25日 16時00分

山下氏は本紙のインタビューで大いに語った

 柔道の世界選手権が25日、ロシア・チェリャビンスクで開幕する。長らく低迷する男子重量級では100キロ級の派遣が見送られるまさかの事態。100キロ超級の奮起が不可欠だが、ロンドン五輪金メダリストのテディ・リネール(25=フランス)が大きな壁となる。いったい、どうすればいいのか。対外国人無敗を誇るロサンゼルス五輪無差別級金メダリストで全日本柔道連盟の山下泰裕副会長(57)が本紙の独占インタビューに応じ、勝利への道しるべをしるした。

 

 ――世界選手権で100キロ級は史上初めて代表を派遣しなかった

 

 山下氏:最初聞いた時はびっくりしたけど、私が強化に取り組んでいれば同じ提案をしたと思いますね。話を聞いて非常に納得いきましたし、その方向で進めるべきだろうと思いました。

 

 ――その分、100キロ超級は上川大樹(24=京葉ガス)、七戸龍(25=九州電力)の2人を派遣。ただ、日本勢は最近の世界大会で結果が出ていない

 

 山下氏:今に始まったことじゃないですよね。小川(直也)、篠原(信一)以降、重量級は育ってないんじゃないですか。全日本選手権でも優勝したのはほとんど100キロ級の選手。10年以上前からそうなってきてる。

 

 ――そうした現状を招いた原因は何か

 

 山下氏:1つにはいい人材が入ってきてないっていうのもあるのかなと思います。私は大きかったけど、走るのが速かったんですよ。斉藤(仁)先生だって145キロあって倒立歩行で試合場(1周)をゆうゆうと行けた。「本当に強い選手を」と思ったら、子供からいい人材を獲得していくところから始めていかないことには。日本には他の国にないような技術の蓄積があるとか、指導力があると言ったっておのずと限界があると思います。

 

 ――今回もリネールが立ちはだかる

 

 山下氏:はっきり言ってリネールとの差はすごいあるけども、持てる力を出し切ればリネール以外にはすべて勝てるチャンスはあるんじゃないかと思いますね。金は厳しくてもメダルは獲得できるんじゃないかな。

 

 ――柔道家としてのリネールの強さとは

 

 山下氏:体がデカいけど非常にバランスのいい選手。技も豊富だし、戦い方も賢い。これまで日本に立ちはだかってきた外国人重量級の選手と言ったら(アントン)ヘーシンク、(ウィリエム)ルスカがいるでしょ。あと(ダビド)ドイエもいる。その何人と肩を並べる、あるいはそれをしのぐ可能性を秘めているのがリネールだと思います。

 

 ――どうすれば勝てる

 

 山下氏:試合で勝つための戦い方は2つしかない。1つは自分の力を出し切ること。もう1つは相手の力を出させないこと。自分の力が10で相手の力が15だとしますね。自分の10出したって相手が15出したら勝てないわけですよ。ところが、相手の15の力を出させなくてこれが7とか8になれば10の力で勝てる。ということは相手の嫌がることをする、組み勝つとか相手の意表を突くとかね。1回動揺しちゃうと人間はなかなか元に戻せないんですよ。精神的に彼が安定した状態でいると、日本の選手だけじゃなく世界の選手も勝ち目ないと思います。彼が我を失うとかあわてるとか、そういう状況を作った時、勝てる目がある。

 

 ――山下先生も現役時代、無敵を誇った

 

 山下氏:勝負は己を知って相手を知って初めてできる。私も言いたくないけど、なんで私がこうやって勝ってきたかというのは、ひと言で言うとほとんど組み勝ってるんです。ほとんど組み勝ってるというのは、ほとんど私のペースで試合してるんです。私の間合いで。リネールがなんで強いかというと同じなんです。ほとんどリネールの組み手で、リネールの間合いになっている。

 

 ――お家芸と言われた重量級がこのまま復活しないのはさびしい。次のリオ五輪までに日本人は勝てるのか

 

 山下氏:オリンピックになればなるほど、魔物がすんだり女神がすんだりする。今年のソチ五輪だってそう。世界の優勝候補が敗れている。あきらめるんだったら、試合しないほうがいい。もう1つ言うと、難しいことほどやりがいがあると思いますよ。

 

 ☆やました・やすひろ=1957年6月1日、熊本県生まれ。77年から9年連続全日本選手権優勝。84年ロサンゼルス五輪無差別級で金メダルを獲得。同年、国民栄誉賞受賞。85年、外国人選手には生涯無敗のまま203連勝で現役を引退。昨年8月、全日本柔道連盟副会長に就任。東海大学副学長、日本オリンピック委員会(JOC)理事。

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