柔道の世界選手権(ロシア・チェリャビンスク)は25日に男子60キロ級、女子48キロ級で開幕する。昨年は男子が金メダル3個を獲得。ニッポン柔道の復活を印象づけた。2016年リオデジャネイロ五輪まで2年を切った今年はユニークな即戦力が揃い、メダルラッシュの態勢が整った。男子ではホッキョクグマと暮らした経歴を持つ66キロ級の高市賢悟(21=東海大)に期待が集まる。

 高市は昨年の講道館杯で3位に躍進すると、4月の選抜体重別選手権ではロンドン五輪銅メダリストで昨年の世界王者・海老沼匡(24=パーク24)を完璧な内容で撃破して初優勝。一気に代表の切符をつかみ取った。

 60キロ級代表の高藤直寿(21)とは同期。知名度は高藤が先行しているものの、高市も追撃の準備を整える。初代表とはいえ、これまで外国人選手に負けたことがない。6月のグランプリ・ブダペストでも優勝。世界選手権でも“外国人キラー”ぶりを発揮できるか注目される。

 実は高市は、選手として頭角を現す前から、その名を知られた存在だった。父・敦広さん(44)は愛媛・とべ動物園の飼育員で、日本で初めてホッキョクグマの人工保育を成功させた人物。ホッキョクグマは「しろくまピース」の愛称で親しまれ、さまざまなメディアで取り上げられていたのだ。

 敦広さんは、ピースが1999年12月に生まれた直後、母親グマに育児放棄されたため、自宅に引き取って24時間態勢で保育した。「家で飼ってたんです。小学校に入る前ぐらいですね。ダッコしたりしました」(高市)

 世界的にも珍しいホッキョクグマとの共同生活は約3か月続いた。高市は当時6歳。最大体長はメスで2メートルになるホッキョクグマだが、当時のピースは赤ちゃん。あどけない表情で眠っている時間も多く、かわいくて仕方がなかったという。

 携帯電話にはピースの写真が入っている。ホッキョクグマと生活をともにした男だ。初の大舞台にも動じることはない。

「世界選手権は出られると思ってなかった。出させもらうと思っているので金メダルだけ目指して頑張ります」。いくつもの試練を乗り越えたピースはもう14歳。高市は柔道世界一になって、たくましくなったピースに吉報を届けるつもりだ。