【柔道・代表決定戦】阿部一二三「俺の人生、邪魔すんじゃねえ!」精神でつかんだ五輪切符

2020年12月14日 05時15分

会見で笑顔を見せた阿部一二三(代表撮影)

 俺の人生、邪魔すんじゃねえ! 東京五輪柔道男子66キロ級代表決定戦(13日、東京・講道館)で2017、18年世界王者の阿部一二三(23=パーク24)が昨年王者で宿命のライバル丸山城志郎(27=ミキハウス)を24分にわたる大死闘の末に破り、代表の座を手に入れた。新型コロナウイルス感染予防で無観客、さらに柔道史上初のワンマッチという異例ずくめの戦い。柔道版〝巌流島の決闘〟を制した裏には「怪物」と呼ばれ、注目され続けてきた男の並々ならぬ決意があった――。

〝令和の巌流島決闘〟は静まり返った異様な緊張感の中で始まった。ケンカ四つの激しい組み手争いの中、阿部が袖釣り込み腰、丸山が内股と互いの得意技を繰り出すも決定的な場面をつくれないままで4分が過ぎ、延長戦に突入。慎重な試合運びで両者の執念がぶつかり合い、延長戦だけで20分が経過したところで、阿部が勝負をかけた大内刈りだ。丸山も決死の返し技を繰り出したが、決まらずに「技あり」。怪物が壮絶な死闘を乗り越えて勝利をもぎ取った。

 試合後は人目をはばからず涙を見せたものの「本当に長い試合だったが、集中して前に出る柔道を貫き通せた。五輪が決まってやっとスタートラインに立てたので、今回の経験をしっかり生かしたい」と喜びを口にした。丸山については「本当のライバル。丸山選手がいたから成長できたし、強くなれた」とその存在の大きさを語った。

 直近の試合である昨年11月のグランドスラム大阪大会では勝利していたものの、ここまで丸山に対しては3勝4敗と負け越していた。宿命のライバルをここ一番で撃破した原動力には、誰よりも強い東京五輪への思いがあった。

 柔道の五輪14階級で男子66キロ級だけ、コロナ禍の影響で代表が未定のまま。阿部は母校・日体大で稽古を積んでいたが、8月に同柔道部内で新型コロナウイルスのクラスターが発生した。所属のパーク24に拠点を移すと、バルセロナ五輪78キロ級金メダルの〝元柔道王〟吉田秀彦総監督(51)の「追う立場の気持ちになって勝負しろ」とのアドバイスを受け、打ち込みやトレーニングに励んできた。

 クラスター騒ぎが落ち着き、日体大に戻ると男子柔道部の田辺勝監督(47)は目を見張った。「体は締まっているし、頬もこけていた。このコロナ禍の中で、しっかりとトレーニングしてきたのが分かった」とひと皮むけた姿に驚いたという。

 最近の目つきにもこれまでとは違うものを感じた。1か月ほど前のことだ。阿部と練習パートナーを引き連れ、〝決戦の地〟講道館に、実際の畳の感触を確かめがてら、練習に訪れた。ひとしきり汗を流した後、田辺監督はこう声をかけた。

「ずっと公言してきた五輪で優勝したいという思いを前面に出す、ワガママな考えでいい。『俺の人生、邪魔すんじゃねえ!』ぐらいの気持ちで準備していけ」

 聞き入る阿部の目は真剣そのもので「とにかく五輪への強い思いが伝わってきた」。常に注目を浴びてきた一方で、大きな重圧と戦ってきたのも事実だが、同監督は怪物の精神的な進化を感じとったという。

 さらに女子52キロ級で先に代表に決まっていた妹の詩(20=日体大)の存在も大きい。「周りの目も、きょうだいで(五輪)っていうのがあったし、ずっと言われてきた。阿部はそれをプレッシャーじゃなく、力に変えることができた」(田辺監督)

 世界最強のライバルを下したことで、来夏の東京五輪では金メダルが確実視されるが、田辺監督は「人間的に調子に乗らないで、みんなに応援してもらえるような選手になってほしい」とエールを送る。悲願である兄と妹の五輪ダブル金メダルへ「邪魔すんじゃねえ!」と突き進んでいく覚悟だ。