【Restart パラヒーローズ その壁を乗り越えろ(12)】東京五輪代表の座を巡り、柔道男子66キロ級の丸山城志郎(26=ミキハウス)と阿部一二三(22=パーク24)が死闘を繰り広げる一方で、視覚障がい者柔道男子66キロ級の代表争いからも目が離せない。瀬戸勇次郎(20=福岡教育大)は、過去にパラリンピック3連覇を果たした藤本聡(45=徳島視覚支援学校)の壁を打ち破り、初の大舞台出場を狙っている。 


 兄の影響で4歳から健常者に交じって柔道を始めたものの、中学生になると弱視の影響で組み手争いの距離感をつかめなくなった。ほとんど勝つことができず「高校は文化部か何かに入ろうと思っていた」。ところが、周囲に誘われて柔道部の見学に行ったところ「マネジャーさんから『これ私の連絡先だから』と渡されて、もう逃げられない状況になった」と競技を続けることになった。

 高校では「中学に比べたらかなり一生懸命やった」と部活に没頭。すると、高校3年の夏に運命を変える出来事があった。集大成と位置付けていた団体戦の全国大会・金鷲旗高校柔道大会。強豪校の選手相手に躍動する瀬戸の姿が関係者の目に留まり「試合に出てみないか」と誘われたことがきっかけで、全国視覚障害者学生柔道大会への出場が決まった。

「あまりにも壁が高いならやめればいい」と軽い気持ちで臨んだが、結果はまさかの優勝。ネット上で「未来のパラリンピアン」と報道されたことで「引っ込みがつかなくなった」。さらに、全日本視覚障害者柔道大会でも3位に入ったことで「頑張ればもうちょっと上に行けるかもしれないと思った。結果が出てしまったので、これは続ける以外ない」と覚悟を決めた。

 健常者の柔道とは違い、組み合った状態で試合を行うため、筋力を徹底的に強化。「かなり体つきはよくなった」と手応えを得ると、2018、19年には日本一に輝いた。しかし、代表切符を手にするには、国際大会で好成績を残さなければならない。「一番必要なことは海外選手の対策。変則的な柔道に対応することが課題」とさらなるレベルアップに余念がない。

 東京の地で最高の輝きを放つべく、若武者が“パラ柔道界の三四郎”に名乗りを上げる。


☆せと・ゆうじろう 2000年1月27日生まれ、福岡県出身。先天性の弱視で視力は左右0・1未満だが、4歳から柔道人生をスタート。高校3年の夏に視覚障がい者柔道を始めると、国内外の大会で活躍。18年4月から福岡教育大に進学し、特別支援学校の教員を夢見て、文武両道に励んでいる。その一方で、最近はスマートフォン向け野球ゲーム「プロ野球スピリッツA」(コナミデジタルエンタテインメント)にハマっている一面も。169センチ、66キロ。