“超新星”大野が魅せた「強く美しい柔道」

2013年08月30日 11時00分

【ブラジル・リオデジャネイロ28日(日本時間29日)発】柔道の世界選手権3日目(マラカナジーニョ体育館)、男子73キロ級決勝は初出場の大野将平(21=天理大)がロンドン五輪銅メダルのウーゴ・ルグラン(フランス)に鮮やかな跳ね腰で一本勝ち。新鋭が鮮烈な初出場優勝を果たした。ロンドン五輪で金メダルゼロに終わった男子は、井上康生監督(35)が抜てきした新世代が大活躍。これで開幕から3日連続の金メダルとなり、ニッポン柔道は完全に復活への軌道に乗った。

 これがニッポンの柔道だ。初戦から大野の投げ技が冴えまくる。得意の大外刈り、内股で強豪を次々と撃破。決勝も圧巻だ。開始から攻めまくり、ロンドン五輪銅のルグランに柔道をさせない。内股で有効を奪うと、トドメは跳ね腰だ。鮮やかに投げ飛ばして一本勝ち。柔道私塾「講道学舎」の先輩にあたる柔道王・吉田秀彦氏(43)ばりの技のキレで、世界の頂点に立った。

 大野も「素直にうれしい。まだ、世界一になった実感はないけれど。日本の柔道が一番強く、一番美しいということを見せたかった。結果には満足している」と充実した表情を浮かべた。

 初出場で大仕事をやってのけた新鋭。その裏には骨の髄まで染みた“穴井イズム”があった。

 天理大柔道部の副監督を務める穴井隆将氏(29=天理大職)は、2010年世界選手権東京大会の100キロ級王者。引退試合となった4月の全日本選手権を制すなど、近年の男子柔道をエースとして引っ張ってきた。大野は日ごろからアドバイスをもらい、試合に生かしている。なかでも必ず言われるのは「我慢」の2文字だという。大野本人が本紙に明かした。

「ボクはいつも穴井先輩に『我慢しろ』っていうことをずっと言われている。去年から『我慢、我慢』という言葉を心に秘めて試合ではやっています。それをまた、今回も言われたんで」

 この言葉の意味は苦しい場面でとにかく耐えることにあるという。「その場面を我慢し、乗り越えるというか、気持ちを切らさずにやるっていう意味だと思います。『根気を』っていうことですね」。大野は試合で窮地になるたびに穴井氏の言葉を思い出し、不屈の闘志で切り抜けてきた。

 今大会では、その穴井氏がテレビ解説席に座った。大野のすべてを知り尽くす大先輩が晴れの舞台の一挙手一投足を見守った。大野の身が一段と引き締まったことは言うまでもない。

「(解説で)文句を言われないようにしたい。穴井先輩が納得するような試合ができればおのずと結果もついてくる」と誓っていた大野が成し遂げた快挙。穴井氏もテレビ解説の中で「素晴らしい」とうなるしかなかった。固いキズナで結ばれた“師弟愛”が金メダルをもたらした。

 男子は60キロ級の高藤直寿(20=東海大)、66キロ級の海老沼匡(23=パーク24)が金メダルを獲得。2016年リオ五輪へ向け次世代のエース候補が次々に現れるなか、大野の優勝は“本命”の登場と言える。それほど鮮烈な金メダル獲得となった。

☆おおの・しょうへい=1992年2月3日生まれ。山口県出身。7歳から柔道を始める。数々の名柔道家を生んだ柔道私塾「講道学舎」に入り、世田谷学園高から天理大学。2011年に世界ジュニア、12年グランドスラム東京で優勝。得意技は大外刈り。170センチ。