これで流れは変わるのか。柔道界の“怪物”阿部一二三(22=日体大)が逆襲開始だ。グランドスラム(GS)大阪大会(22日、丸善インテックアリーナ大阪)の男子66キロ級決勝で、世界選手権王者のライバル丸山城志郎(26=ミキハウス)を撃破して優勝。今回敗れると東京五輪行きが消滅する可能性もあったが、土壇場で意地を見せた。崖っ縁にいた怪物復活の秘密とは――。


 3連敗中の宿敵との決勝は、またもや延長戦に突入。阿部は丸山の帯を持っての投げを見せ、なりふり構わず攻めた。そして7分27秒、丸山の伝家の宝刀・内股に支え釣り込み足を合わせて技ありを奪い、激闘に終止符を打った。

 これまでの丸山との試合では、序盤は攻め立てていても、延長戦に入るとトーンダウンして得意の前に出る柔道が鳴りを潜めていたが、この日は違った。偽装攻撃で指導を取られようが委細構わず前に出る。さらに丸山が「左つり手がうまく持てなかった」と振り返ったように、つり手を徹底的に切り、相手にも攻めさせない。「何が何でも絶対に引かないという気持ち」(阿部)での戦いぶりはまさに鬼気迫るものだった。

 土壇場での復活には何があったのか。五輪の代表争いで後がなくなり危機感を覚えたのはもちろん、何より“原点”に返った。強くなりたいという一心で稽古に励んでいたころのように、練習に打ち込んだ。「今までも決め切れるシーンはあったので、最後の詰めの部分を練習してきた」(阿部)というが、この練習の際に役立ったのが持って生まれた阿部の“武器”だ。

 指導する日体大の田辺勝監督(46)は、本紙にこう明かしている。「(阿部と)握手してみたらわかるが、彼は手のひらが厚い。そのおかげで絞る力が強いし、相手の手を切るときにも有利に働く」

 実際に阿部と握手した関係者は「確かに厚みが全然違った」と言い、独特の手の感触に驚いたという。この日の決勝でも“魔法の手”の威力で丸山につり手を持たせず、返し技ながらもしっかりと相手をつかんで投げ切った。

 派手なガッツポーズを見せた阿部は「やられっぱなしで悔しかった。国内の大会で勝ち切った姿を見てもらえたのはうれしい」と素直に喜んだ。さらに「まだ、並んだわけじゃない。これから全て勝って五輪行きを決めて、金メダルの夢を達成したい」と自信も取り戻した様子だ。

 代表争いはまたもや混沌としてきたが、華のあるスターの復調はニッポン柔道にとっても明るい材料。その怪物級の手のひらで、五輪切符と金メダルもつかみ取る構えだ。