柔道の世界選手権(25日開幕、東京・日本武道館)男子代表が5日、宮崎・延岡市で行われた強化合宿を公開した。リオ五輪73キロ級金メダルで日本のエース、大野将平(27=旭化成)は精力的に汗を流して準備万端の様子。前回五輪後は約8か月間休養したが、東京五輪1年前にはきっちり調子を上げてきた。他のリオ金メダリストが苦闘を続ける中で、プレッシャーをものともしない大野の強さの秘密とは――。

 優勝すれば東京五輪代表の座もグッと近くなる大一番まで残り3週間。4月の全日本選抜体重別を制してから大会を挟まずにきたが、大野は「与えられた期間でしっかり準備するっていうのが選手にとって最重要。自分は試合と稽古のギャップを感じることもない」と王者の風格を漂わせ、意に介さない。

 ニッポン柔道のエースが東京五輪での2連覇へ順調に階段を上がる一方で、他のリオ五輪金メダリストたちは苦闘を続けている。柔道男子90キロ級のベイカー茉秋(24=日本中央競馬会)は個人はおろか団体でも世界選手権代表の座を逃した。男子体操でロンドン・リオ五輪と個人総合連覇を果たした内村航平(30=リンガーハット)は4月の全日本選手権で予選落ちし、世界選手権の代表から外れた。他にも競泳400メートル個人メドレー覇者で日本のエース萩野公介(24=ブリヂストン)、女子レスリング48キロ級を制した登坂絵莉(25=東新住建)らが世界選手権代表落ちを喫した。

 実績を残した選手が燃え尽き症候群や金メダリストの重圧に悩まされ、東京五輪での連覇に向けて苦しむ中で、大野の泰然自若ぶりは特筆ものだ。この強さはいったいどこから来るのか。

 大野は「育った環境が環境なので、心だけは折れないでやれている。講道学舎にはいまさらながら感謝しています」と話す。講道学舎といえば、バルセロナ五輪金メダルの古賀稔彦氏(51)と吉田秀彦氏(49)、シドニー五輪優勝の滝本誠氏(44)らを輩出した、エリート柔道私塾だ。

 2015年に惜しまれながら閉塾したが、指導が非常に厳しかったことで知られ、中高一貫教育で生徒を徹底的に鍛え上げた。「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」と言われた伝説の柔道家・木村政彦も足を運んだ道場で培った「心」が、大野を支えているという。


 さらに、やみくもに練習するのではなく、男子代表の井上康生監督(41)が「よく考えて稽古をやっている」と感心するクレバーさもある。大野は「2つ目の集大成として東京五輪があるが、まだ道は続く」。五輪連覇はあくまで通過点という“柔道エリート”の姿勢にブレは全くない。