メダリスト柔道家は「武道必修化」をどう考えているのか

2012年03月31日 10時30分

【柔道関係者が本音で明かす 是か非か 中学校武道必修化(3)】
 4月からスタートする中学生の武道必修化。柔道については“現状危険派”と“条件付き安全派”が対立している。議論は平行線をたどったままだが、最も困惑しているのは現場で教える体育教師だろう。もはや待ったなしの状況で、生徒を守るために何ができるのか。最終回はさまざまな柔道関係者が対応策を提案すると同時に、必修化自体の意義について語った。

 今回の議論の中では「柔道技の危険性」「体育教師の柔道・安全知識の欠如」などが論点として挙げられた。
 それらの問題も早急に煮詰めなければならないが、安全指針ができても実効性がなければ意味がない。茨城県内の中学、高校で20年間柔道を教えてきた高尾淳教諭(44)はこう指摘する。
「授業が部活動と違って難しいのは、柔道に全く興味のない生徒や荒れている生徒、理解力の劣る生徒などに教えなければいけないこと。いくら『安全にやれ』と言っても聞いていないんですから。それだったら、まずは安全な環境を整えることも重要ですね」
 高尾氏の授業では安全対策を徹底。畳のほかに厚さ20センチの体操マットを敷いたり、必要に応じて生徒にヘッドギアの装着なども行っているという。

「小川道場」で少年柔道に携わる暴走王・小川直也(43=小川道場)も同調する。
「オレの道場も柔らかい畳を敷き、その下にはクッションになるようにバネが入っている。施設面の充実を図ることで重大事故は防げる」
 ただ、「全国柔道事故被害者の会」が主張するように、頭部への衝撃だけが重大事故につながるとは限らない。例えば、最近注目されている「加速損傷」は、脳に衝撃が加わらなくても強く揺さぶられることで脳の血管が破断し、「硬膜下血腫」を引き起こす。実際にそのような症例があるため、技を限定(寝技など)したうえで前出の対策を取れば、より効果的かもしれない。
 一方で、今回の問題で柔道のリスク面ばかり強調されてしまったことは否めない。小川は「谷(亮子)先生や吉田(秀彦)先生ら、しかるべき立場にいる有名柔道家に協力を仰ぐべきだ。コーチとして全国を回って柔道のいい面を伝えればいい。もちろんオレでよければ協力するよ」と提案。確かに文部科学省や全日本柔道連盟による周知の徹底は必要だろう。

「古賀塾」で80人の少年に指導するバルセロナ五輪金メダリストの古賀稔彦氏(44)は柔道の精神性を重視する。「私としては技どうこうより、嘉納治五郎先生(柔道創始者)の『自他共栄』の教えを伝えることの方が大切だと思う。13時間で生半可に柔道を教える方が逆に危険です。受け身と『教え』だけでいい」
 ただ、ここまで論議になるともはや柔道実習の意義さえ問われてくる。実は文科省も微妙に意味合いを変化させている。当初は「練習や試合ができるようにすることを重視すること」をお題目にしていたが「武道っていったい何なんだろうというきっかけになればいい」(文科省スポーツ・青少年局体育参事官付指導係)とトーンダウンしているのだ。問題は山積みだが、重大事故が起こってからでは遅い。文科省、全柔連だけではなく学校、保護者を含めた地域社会全体で、早急に新たな対策を取るべきだろう。
(終わり)