異能の柔道家・向翔一郎 東京五輪「金」の向こう側に見えるカズレーザーとの合体

2019年05月10日 11時00分

向は東京五輪の柔道会場、日本武道館の前で金メダルを誓った

【「令和」に刻む東京五輪 気になる人をインタビュー】2020年東京五輪で「気になる人」にスポットを当てた連載「『令和』に刻む東京五輪」の第3回は柔道界から“異端児”が登場だ。男子90キロ級で今夏の世界選手権(8月25日開幕、東京・日本武道館)代表に初選出された向翔一郎(23=ALSOK)は、その奔放な言動と変則的な戦い方から「異能の柔道家」として注目を集める。本紙の単独インタビューに応じた若武者が見せた意外な素顔と、描いている将来像とは――。

 ――今夏の世界選手権代表に決まった

 向 日に日に緊張感が増すっていうか、もっと練習しなければいけないなっていうのは感じています。

 ――昨年は団体での世界選手権出場

 向 団体みたいに誰かが助けてくれるわけじゃないんで、個人の重圧も感じてますけど、オリンピックはこんなもんじゃないとも思ってます。目指してるのは勝つ時も負ける時も、豪快(笑い)。見ている人が「楽しいな」って思えるような柔道をしたいですね。

 ――試合では格闘技のように頭を左右に振って向かっていく変則的なスタイルだ

 向 キック(ボクシング)の練習をやってます。同級生の選手が、柔道にどうやってつなげるかっていうのを考えてくれる。つり手を持つときはジャブとか。手だけじゃなくて体で、力を抜くイメージですけど、柔道家って体に力が入りっぱなしだからできないんです。あとはスイッチ。一回体を入れ替えるだけでも相手は何をしてくるんだろうってなる。

 ――参考にした試合は

 向 一番分かりやすいのは(那須川)天心VS(フロイド)メイウェザー(昨年大みそかのRIZINさいたまスーパーアリーナ大会)。あの時、ただ「メイウェザー強い」っていうふうに見るんじゃなく、(メイウェザーが肩をピクッと動かす)圧のかけ方を見ていた。あれは(4月の全日本)選抜(体重別選手権)で自分も使いましたね。

 ――メイウェザーがお手本とは…。その選抜優勝後に「感謝」という言葉を口にしている

 向 忘れちゃいけない言葉だと思ってます。今、柔道でご飯食べさせてもらってるし、恩返しとか唯一の親孝行をできるのが柔道なので。自分は全然ケガをしないので、それも母に感謝してますね。

 ――お世話になった人への恩返しとなると…

 向 五輪で金メダル。絶対「金」狙います。世間一般からしたら、柔道は「金」で当たり前みたいな部分があるので、世界選手権は通過点だと思わなきゃいけない。

 ――東京の次の2024年パリ五輪は頭にあるか

 向 全く考えてないっすね。たぶん気力が持たないし、下からもっと強いのが出てきますから。強いまま終わりたい。負けてる暇あったら違うことに目を向けたいです。

 ――となると、東京五輪金メダルの先は

 向 セカンドキャリアはよく考えます。「MMA(総合格闘技)に興味は」とか聞かれますけど、お金にならない(笑い)。子供とか奥さんができた時に、そんな冒険はできないし、一番は親が心配する。だったら海外で柔道やったり。

 ――かなり現実的だ

 向 姉に男の子の子供ができたんですけど、めちゃめちゃかわいくて、本当に子供欲しくなりましたね。何でも買ってあげたくなっちゃう(笑い)。遊びに行くと姉が「お財布が来たよ」って言ってる。

 ――お姉さんも柔道をやっていた

 向 大学4年まで。そこから一時期、MMA行ってました。

 ――じゃあ、やはり向選手も

 向 いや、姉ほど気が強くない。自分、実は優しいんすよ(笑い)。

 ――柔道の指導者は

 向 器じゃないですね、自分は。上に立って、何かを指図するっていうのができない。だからできてもコーチです。

 ――ではタレントは? キャラ的に向いていそうだ

 向 やってみたいっすよね。今、自分のキャラ、抑え込んでますから(笑い)。だからタレントとかになったら、もう言いたいこと言って…柔道界に戻って来れなくなる(笑い)。

 ――似ていると言われているお笑いコンビ「メイプル超合金」のカズレーザーとの共演が目に浮かぶ

 向 あったら、いいっすねえ。カズレーザーが消えないうちにそれやりたいっすねえ。

【激戦の90キロ級】向の主戦場の90キロ級では東京五輪の代表争いが混沌としている。

 この階級には、リオ五輪金メダルのベイカー茉秋(24=日本中央競馬会)に、昨年の世界選手権銅メダルの長沢憲大(25=パーク24)、さらに世界選手権団体代表にはホープの村尾三四郎(18=東海大)が選出されるなど、強豪がひしめく。

 向は4月の選抜体重別決勝で長沢に延長の末に反則勝ち。「今4人で戦ってる中で、負ける気もさらさらないですけど、もっと自分の中では進化しないといけない」(向)。まずは10日開幕のグランドスラム(GS)バクー大会に出場する。最終目標と語る東京五輪金メダルに向けて世界選手権で初Vを果たし、混戦から抜け出したいところだ。

☆むかい・しょういちろう 1996年2月10日生まれ。富山・高岡市出身。4歳から柔道を始め、日大1年のときに全日本ジュニアで優勝。昨年のGSパリ大会ではオール一本勝ちで、IJF(国際柔道連盟)ワールドツアー初優勝を飾った。昨年のGS大阪大会と今年4月の全日本選抜体重別を制して、個人として初の世界選手権代表に選出された。得意技は内股。178センチ。