キングがいきなり崖っ縁だ。体操の世界選手権(10~11月、カタール・ドーハ)代表選考を兼ねた全日本選手権・男子予選(27日、東京体育館)で内村航平(29=リンガーハット)は6種目合計85・098点でまさかの5位発進となった。首位の白井健三(21=日体大)とは1・001点差。前人未到の11連覇どころか、個人総合での世界代表入りも危うくなった。

 誤算はあん馬だった。内村は両足の爪先まで伸ばしてリズムよく旋回したものの、バランスを崩して落下した。「結構ショックでした」。13・166点でこの種目は45位タイに終わり、首位争いから脱落した。

 11連覇を果たすためには29日の決勝で白井を逆転しなければならない。しかし、内村は「巻き返すも何も結構きつい」と肩を落とす。「1点(差)って今のルールを考えたら、相当難しい」とうつろな目でつぶやいた。

 昨年、世界選手権で左足首を負傷。3月のW杯ドーハ大会で復帰したものの、出場した4種目すべてで予選落ちした。それでも、本紙昨報通り前日(26日)には復調に自信を見せていたが、練習と実戦では感覚にズレがあった。

 一方、個人総合での世界代表入りにも暗雲が垂れ込める。年齢から来る衰えと年々闘う内村は予選で力を抑えて決勝でギアを上げるのが“勝利の方程式”だった。昨年も予選4位から逆転優勝を飾った。しかし、今年は予選の持つ意味合いが変わっている。

 昨年は予選の点数が代表選考に影響することはなかったが、今年は2枠ある個人総合の代表は全日本の予選と決勝、5月のNHK杯の得点の合計で決定する。そのため、代表争いからも大きく出遅れることになった。

 追い上げるためにはミスをなくし、技の難度を一段と上げることが不可欠だ。内村も「代表選考としてはフルのフルの演技をしないといけない」と覚悟するが、攻め過ぎれば失敗のリスクが付きまとう。

 さらに左足首は治癒したとはいえ半年間、試合から離れていた。決勝まで1日空くものの、3日間で6種目を2回通すのはスタミナ的に気がかりでもある。「予選より決勝のほうがキツいのではないか。ケガが回復しても体力が不安。どこまで戻っているか」(関係者)との指摘もある。

 内村は逆風をはね返せるのか。正念場だ。