「日本体操界初」の舞台裏 内村プロ転向の真意

2016年11月12日 11時00分

この日の内村はプロ転向に関するコメントをしなかったが…

 リオデジャネイロ五輪体操男子で個人総合と団体総合で金メダルを獲得した内村航平(27=コナミスポーツ)が体操をメジャーにする。10日、全日本団体選手権(11~13日、代々木)の会見で同大会欠場を発表したが、話題を呼ぶプロ転向の件については「今大会が終わるまで話すことはない」とコメントすることはなかった。そこで、本紙は事情をよく知る関係者をキャッチ。そこには内村のプロに対する並々ならぬ決意があったことが判明した。日本体操界初の試みの舞台裏とは――。

 

 会見でプロ転向の話題は主催者を通じて事前にNG扱いにされた。所属のコナミスポーツや他の選手を考慮しての措置と見られるが、報道陣はガックリ。それでも、内村はいつもの調子で淡々と欠場の理由を説明した。

 

「リオで痛めた腰、左肩、右足首の状態が良くなっていません。疲れもあり、練習もできていない。燃え尽き症候群みたいにもなっている。五輪のような演技を見せたいと思っていたが、気持ちはあっても体がついてこない。なので、今は休む時と割り切りました」

 

 内村は10月の全日本シニア選手権も欠場しており、今月19日から始まる「体操ニッポン2016エキシビション」への出場も見合わせる見込み。今大会はコナミスポーツ所属として最後の大会になる可能性が高かっただけに何とも残念だが、それだけリオ五輪で満身創痍で戦った証しだろう。

 

 帰国後もさまざまな公式行事やメディア出演に引っ張りだこだった。まともな休みをとれない中、痛みもひかず満足な練習ができない状態が続いた。床運動や跳馬に関しては五輪以来やっていないほど。それでも所属チームの応援で最後の貢献をするつもり。「代表組3人も万全ではないが、コナミは抜きんでている。その力を存分に発揮すれば結果はついてくると思う。僕はそのサポートをしたい」(内村)

 

 そしてキングはプロへとシフトする。コナミスポーツとは11月いっぱいで終了。12月1日にサッカーの日本代表DF長友佑都(30=インテル)らが所属するマネジメント会社「スポーツコンサルティングジャパン」と契約する。

 

 事情をよく知る関係者が明かす。「実は内村がプロ転向を考え始めたのは最近の話ではないんですよ。2012年ロンドン五輪のころから模索していました。当時、事務所関係者に相談したんですが、環境が整わず『難しい』と聞かされ『そうですよね』と一度は立ち消えになったんです」

 

 それでも内村のプロに対する思いは揺らぐどころか高まるばかりだった。理由はズバリ「体操をメジャーにする」こと。ロンドン五輪で金メダルを取り、世界選手権を何度制しても世間の体操に対する認識はイマイチ。これに内村はじくじたる思いを募らせてきた。

 

 日本のアマチュアスポーツ界は企業や団体に所属し、給与を得ながら活動するのが一般的だが、逆にそれが足かせになるのも事実。内村の場合、日本オリンピック委員会(JOC)のシンボルアスリートも務めているため、がんじがらめだった。自由に体操をPRするには所属を離れ、プロになるしかない――。選択肢は一つだった。

 

「『絶対に独立する』と言ってきかなかったそうです。ある時、内村はコナミスポーツの加藤裕之監督と森泉貴博コーチと話し合いました。内村のあまりの意志の強さに『そこまで言うんなら応援する』ということになったんです。やはり一番の功労者でもありますからね」(同関係者)

 

 20年夏季五輪が東京に決まったのも大きい。内村という名前をもっと知らしめるために、これ以上の機会はないからだ。先日、国際体操連盟(FIG)の会長に就任した日本協会・渡辺守成専務理事(57)も「全面的に協力しよう」と後押しし、すべての環境が整っていった。

 

 同関係者は「その弾みにするためにもリオ五輪で金メダルを取るのは“マスト”でした。内村への単独取材を制限せざるを得なかったのもそれが理由です。そして、内村はそれを最高の形で応えてくれましたね」。

 

 今まで常識を超える演技で観客を魅了してきた内村。体操をメジャーにするのは“高難度”の技だが、きっとこなしてくれるに違いない。