ついに体操界のキング・内村航平(33=ジョイカル)の雄姿が見納めとなった。

 12日に開催された引退イベント「KOHEI UCHIMURA THE FINAL」(東京体育館)では団体金メダルを獲得したリオ五輪メンバー、昨夏の東京五輪メンバーとともに集大成の演技を披露。オールラウンダーの誇りを背負い、全6種目を演じ切ると会場から大きな拍手喝采を浴びた。試合を終えると「僕の体操人生は終わらない」と語り、引退後は「体操というジャンル全てに関わる」と今後の野望を口にした。

 そんなキングを支えてきたのは完璧な肉体だ。大会後、東京五輪2冠の橋本大輝(順大)は内村のすごさを「体を操る鬼」と表現したように、選手間でも伝説化している。2017年のプロ転向以来、専属トレーナーとして内村の体を見てきた中島啓氏は「肉体が他の選手と違う」と舌を巻く。大会前日、練習するキングを見詰めながら、その肉体の特殊性を口にしていた。

「体操に必要な筋肉しかないんです。自分の体をいかにコントロールし、思い通りに動かせるか。それを常に考え、無駄な筋肉は絶対につけない。体の操作性は他の選手よりも遥かに高いです」

 競技の特化した肉体という意味では、あの元メジャーリーガー・イチロー氏と一緒だという。「ただパワーを求めるのではなく、どうやって力をうまく使うか。トレーニングのためのトレーニングは一切しません」(中島氏)。自身の体をセンサーと呼び、柔らかくてしなやかな筋肉をつけてきたイチロー氏と同様、内村は頭のてっぺんからつま先まで自由自在に操れる肉体を目指し、完成させたのだ。

 引退後もトレーニングを続け、体操を研究する。世界選手権6連覇、五輪2連覇という記録だけでなく、その研ぎ澄まされた肉体も〝殿堂入り〟のようだ。