体操の全日本シニア・マスターズ選手権(19~22日、群馬・高崎アリーナ)の男子マスターズの部が21日に行われ、体操競技の国内最高齢の中村能史さん(81)がつり輪の種目に出場。昨年樹立した自身の記録を上回る81歳8か月の最高齢出場記録を更新した。今年5月には新型コロナウイルスに感染したが、驚異の回復力で見事に競技復帰を果たした。

 今大会は内村航平(31=リンガーハット)らトップ選手が名を連ねるが、マスターズ部門には高齢者も多数参戦。第6班の36組でつり輪の種目に中村さんが登場すると、会場から「今大会最高齢81歳、温かいご声援を」のアナウンス。大きな拍手に包まれる中、体を「く」の字に曲げる脚前挙支持でピタッと止め、その後は体を一直線。最後は昨年失敗した着地を成功させて9・000点(10点満点)を叩き出すと、一段と大きな拍手が沸き起こった。

 演技を終えた中村さんは「いや~、筋力が落ちたね。でも、今回の言い訳としてはコロナ。練習ができなかったから」と笑った。東京都内で外科医の院長を務める中村さんは今年5月、コロナに感染して約3週間入院。「症状は軽かったけど、高齢者という理由で入院することになってね。やっぱりコロナはつらかったよ。体中がしんどくて、全身の嫌悪感がひどかった」。だが、ここからの回復ぶりが常人ではない。診察の仕事を終えると自宅近くのジムに通って筋トレに励んだ。「ベンチプレスは20キロのバーしか上がらないけどね」。絶望的な状態から、見事に華麗な演技を披露する状態までカムバックした。

 1939年1月5日生まれ。俳優の小林旭、山城新伍、千葉真一らと同学年だ。静岡県出身の中村さんは高校時代に体操に打ち込み、一度は競技から離れたが40歳で再開。85年に初めてマスターズ選手権に出場し、今回は27回目を数える。昨年同様「妻は常に私が出ることに大反対だよ」と明かすが「つり輪なんて別に危なくないのにね」と口をとがらす。今後も体が続く限り現役を続けるつもりだ。

 一体いつまで続けるのか? そう問いかけると「90歳かな。世界最高はいくつだっけ?」。さりげなく17年6月のドイツ国際体操祭で女性選手が樹立した91歳を狙っている。

「こんな年寄りでもやるバカがいるんですよ」

 コロナ禍におびえる世の中に、希望の光を照らす笑顔があふれた。