【「令和」に刻む東京五輪 気になる人をインタビュー】24日で、いよいよ東京五輪開幕まで丸1年となった。本紙連載「『令和』に刻む東京五輪」では“気になる人”を直撃してきたが、今回は特に「1年後」が気になる美女アスリートが登場! 体操ニッポン女子のエース、村上茉愛(22=日体大クラブ)は10月の世界選手権(ドイツ・シュツットガルト)で代表落選の思わぬ事態に見舞われ、今まさにどん底から這い上がろうとしている。本紙独占インタビューで現在の心境を吐露し、「1年後の自分」へメッセージを送った――。

 今から7年半前、中学3年生の村上が書いた卒業文集には「夢・目標・目的」と題した将来設計が明確に描かれ、強い決意が詰まった文章はこう結ばれている。

「私はオリンピックに出場し、メダルを取るまで諦めない…」

 まるで東京五輪1年前の「今」を表しているようだが、当時と今の「五輪の見え方」は全く違うという。文集を懐かしそうに読んだ村上は、ゆっくり語りだした。

 村上:この時、目指していたのは(2012年)ロンドン五輪と(16年)リオ五輪。リオは可能性あったけど、ロンドンは無謀な挑戦でした。でも、東京五輪は目標というより現実に近いし、出場することは前提。「出たい」ではなく、「出る」のが当たり前だと思っています。

 自他ともに認めるプラス思考。4歳から体操を始めて以来、いつだってポジティブに体操に向き合ってきた。しかし、ほんの少し前まで「体操をやめたい」と思うほどのどん底を味わった。

 世界選手権の代表選考を兼ねた5月のNHK杯。持病の腰痛が爆発し、無念の棄権となった。代表入りが消滅すると、村上は「1年間終わった」と号泣。この非常事態を受け、日本体操協会の強化本部内で“村上救済論”が出たが、理事会で否決された。

 村上:今、やっと前を向いていますが、あのころは「なんでこんな痛みを我慢しながらやらなきゃいけないの?」って気持ち。もう体操をやめたかった。あの日の夜、私は一人部屋だったのでメチャクチャ寂しくて、誰かに慰めてもらいたかった(笑い)。まともに歩けないし、着替えも一人じゃできないので「助けてー」って思ったけど誰にも頼みたくなかった。変な意地があるんです。

 気は強いけど、寂しがり屋。強さとモロさの両面を併せ持つ。感情豊かで常に喜怒哀楽を表に出し、これまで数え切れないほど涙も流した。昨年11月、日体大生として最後の試合となった全日本団体選手権でも優勝して同期の仲間と表彰式で泣いた。1年生から実力がズバぬけていた村上は、下級生の作業をめぐって同期とぶつかった。ねたみ、そねみとの闘いもあった。それでも「思ったことはハッキリ言う」というスタンスを貫き、険悪だった仲間と最後は涙を流して笑い合った。

 村上:後になってから言うくらいなら、その場でちゃんと感情を出します。相手もふに落ちなければ言い返してほしい。それにしても最近は涙腺が緩くなった(笑い)。全日本種目別(跳馬)もパッと出て優勝してスッと帰ったらカッコいいなって思ったんですけど…。表彰式で世界選手権の代表者が目の前にいて、笑いたくても悔しくて自然と涙が出てきました。

 これまで世界選手権では17年に種目別床運動で金メダル、18年は個人総合銀メダルの実績があるが、五輪初出場のリオ大会はメダルなしに終わった。体操人生の集大成と位置づける東京五輪へ向け、村上は色紙に「1年後の茉愛へ」と書き、メダル取りの熱い気持ちをしたためた。その冒頭の「体操を楽しめましたか?」は、大会後の引退の意志を示している。

 村上:今、悔いなく体操を終われるように没頭し、全力を注いでいます。最終日(8月4日)の平均台決勝まで残って、その着地で体操を終えたいです。メダルを取って「やり切った! もう体操したくない!」って思うくらい吹っ切れたい。その先のことは何も考えていません。

 色紙の写真を見ればお分かりだが、「獲得」を「獲取」と書き間違えた。書き直そうか迷った末に「ここで間違えたのも自分。このままでお願いします!」と言い、練習場へ向かった。ちなみに「獲取(かくしゅ)」とは「つかみ取ること」という意味の正規の言葉だ。1年後、金メダルを“獲取”した村上はこの色紙を手に何を思うのだろうか。

【代表入りへ最後の望み懸ける】NHK杯の棄権で世界選手権代表を逃した村上は、6月の全日本種目別選手権で跳馬のみに出場して意地の圧勝V。腰痛の具合は順調に回復しており、現在は8月開幕の全日本シニア選手権(福井)へ向け、練習拠点の日体大で練習を積む日々だ。体操女子は、村上不在の世界選手権で東京五輪団体枠の獲得を狙う。五輪代表選考基準は未発表だが、村上自身は来年春の全日本選手権、NHK杯で代表入りへ最後の望みに懸けることになる。一方、男子でもキング・内村航平(30=リンガーハット)が4月の全日本選手権惨敗で世界選手権代表が消滅。村上とともに全日本シニアで復帰戦に臨む。

☆むらかみ・まい=1996年8月5日生まれ。神奈川県出身。4歳から体操を始め、池谷幸雄体操倶楽部に所属。小学6年で床運動のH難度のシリバス(後方抱え込み2回宙返り2回ひねり)を成功させる。2015年に日体大に進学。16年にリオ五輪に出場し団体4位、個人総合14位、種目別床運動7位。17年世界選手権は種目別床運動で金メダルを獲得。18年に全日本選手権3連覇を達成し、世界選手権で個人総合銀メダル。床で華麗に弾む姿から愛称は「ゴムまり娘」。身長148センチ。