【「令和」に刻む東京五輪 気になる人をインタビュー】体操ニッポンに待望の新星が出現した。4月の全日本選手権、5月のNHK杯を制して「平成最後」と「令和最初」のダブル王者となった谷川翔(たにがわ・かける=20、順大)だ。10月の世界選手権(ドイツ・シュツットガルト)でまさかの代表漏れとなったキング・内村航平(30=リンガーハット)に代わり、見事に初代表の座を獲得。「次代のエース」の看板を引っ提げて全日本種目別選手権(22~23日、群馬・高崎アリーナ)に出場するニューヒーローを本紙が直撃。その素顔に迫った。

 ――そろそろ街で顔を指さされるのでは

 谷川翔:いや、めったにないですよ。たまに「アレ?」って気づかれる程度。ただ、去年はホントに無名だったので全日本選手権で優勝して少し変わったかな。今年(連覇して)もうちょい、有名になったかもしれません。

 ――初代表の世界選手権。エース内村は不在だ

 谷川:もちろん心細さはありますが、もう内村さんは出ないって決まったし、東京五輪に向けて新しい選手がどんどん活躍しないといけない。中国やロシアもそうやって強くなってきた。今回、僕はそういう立場で世界選手権で結果を残さないといけない。内村さんが必要ないとは思いませんが、谷川翔が日本を引っ張っていくと思ってもらえれば。

 ――今の具体的課題は

 谷川:ボクはDスコア(演技価値点)が低いので、まず鉄棒の「カッシーナ」(伸身コバチ1回ひねり)と跳馬の「ロペス」(伸身カサマツ2回ひねり)を入れたい。あと戦略的なことを考え、得意の開脚旋回を使ってあん馬のDスコアを種目別決勝レベルに上げる。Dスコアが上がってもEスコア(出来栄え点)を下げずに保てれば、個人総合でも世界と戦えるかもしれません。

 ――美しさを示すEスコアは谷川選手の武器。日常生活でも意識を

 谷川:よく普段から姿勢がいいって言われますね。これは母に聞いたんですが、寝ている時に脚を上げて寝返り打つ時も爪先がピンっと伸びているみたい(笑い)。自分では意識してませんが、クセがついている。あと、普段からケガには気をつけています。特に階段は本当に怖いので。

 ――駅の階段を急いで駆け下りたりは

 谷川:あれは絶対にしません。急いで下りると、捻挫する可能性もある。だから時間に余裕を持って行動しています。授業に行く時も時間ギリギリだと走ることになるので、早めに家を出てゆっくり歩きますね。

 ――他のアスリートを参考にするか

 谷川:シンクロ(アーティスティックスイミング)の選手の爪先はすごい。あれくらい伸ばせたらいいなぁ、と思って見ています。あと(フィギュアスケートの)羽生結弦選手はジャンプした時のひねり(回転)がきれい。とにかく全身の無駄がない。感覚的なものなんですけど、テレビで見ていて「スゴい! 減点したくない!」って思っちゃう。ボクも「あの美しさは谷川翔だ」って言われるようになりたいです。

 ――回転中、視界はどうなっているのか

 谷川:よく選手の頭にカメラをつけて映像を撮っていますが、実際の視界と全く違いますね。あんなグルングルンだったら目が回っちゃいます。ひねっている時は速すぎて横は見えてませんが、ピンポイントで下(床)を見ている感じ。鉄棒の着地の前もガッツリ下は見えていますね。

 ――体操競技における着地の美学は

 谷川:お兄ちゃん(航)は“着地王子”って呼ばれていますが、僕も軽い練習の時から着地は意識しています。着地を止めると減点されないのもあるけど、印象が全然違う。見ていて気持ちいいですよね。(2004年)アテネ五輪で団体金メダルを取った時、最後の鉄棒の冨田(洋之)先生の着地(※)は僕の憧れ。(当時5歳で)あまり覚えてないですが、今になってスゴいなって思いますね。

※ フィニッシュの瞬間、NHK・刈屋富士雄アナの「伸身の新月面が描く放物線は『栄光への架け橋』だ!」の名実況で有名。

 ――東京五輪で頂点に立つイメージは

 谷川:昔はただ金メダルを取りたいと思っていただけですが、今はだいぶ現実的。どの技を決めて勝つかというイメージも見えてきた。東京五輪は自分の人生でホントに一番大きなイベント。世界チャンピオンの貫禄を持ち、無敵状態で臨みたい。一番欲しいのは個人総合や種目別ではなく団体の金メダル。アテネの冨田先生のように、東京でも感動的に終わりたいですね。

☆たにがわ・かける 1999年2月15日生まれ。千葉・船橋市出身。小学1年で地元の「健伸スポーツクラブ」に入り、体操人生がスタート。2学年上の兄、航(わたる)の後を追うように千葉・市立船橋高を経て順大に進学。昨年の全日本選手権を初制覇し、今年は同大会を連覇、NHK杯を初制覇して世界選手権の初代表となった。153センチ。