【カタール・ドーハ31日(日本時間1日)発】これで大丈夫なのだろうか。体操世界選手権の男子個人総合決勝は、萱和磨(21=順大)が6種目合計84・765点で6位、昨年3位の白井健三(22=日体大)は84・531点で7位。日本が派遣を中止した2001年大会を除き、出場した世界選手権で1995年大会以来23年ぶりのメダルなしに終わった。五輪2連覇の内村航平(29=リンガーハット)が右足首の故障で出場を断念したといえ、20年東京五輪へ向けて体操ニッポンがまさかの状況に追い込まれた。

 2大会連続のメダルが期待された白井は、得意の床運動で首位発進。だが、中国製の反発力が少ない器具に苦しみ、技の難度を下げた構成で臨んだため、点数は伸びなかった。昨年大会の種目別で優勝した跳馬こそ15・166点の高得点を叩き出したものの、姿勢の乱れに対する減点が厳しかったこともあり、メダル争いにも加われなかった。

 白井は「点数や順位以上のものをすごくいっぱい感じられた」とすがすがしく話したが、全6種目を演技できる選手育成を目指してきた体操ニッポンの伝統が、東京五輪まで残り2年を切った中で途切れたのは事実。この原因はどこにあるのか。

「白井選手も萱選手も頑張ったし、ミスなくやっていますが、やっぱり世界がめちゃくちゃ強くなっていますね。中国、ロシア、米国と世界のレベルが相当上がってきている。本当に日本は頑張らないと、東京五輪は大変です。日本は置いていかれますね」と指摘するのはソウル&バルセロナ五輪メダリストの池谷幸雄氏(48)だ。

 男子個人総合のメダリストは優勝したアルトゥール・ダラロヤン(22)がロシア、2位の肖若騰(22)は中国、3位のニキータ・ナゴルニー(21)はロシアと、団体で3位日本を上回った2国で独占している。池谷氏によれば、こうした世界のレベルアップには大きな“特徴”があるという。

「今回見てて、内村選手レベルの着地がうまい選手がゴロゴロ出てきています。内村選手の求めていた体操をみんなが目指しているということ。見本、お手本にして追いつけ、追い越せでやってきてその成果が出てきた。世界トップのレベルが内村選手のレベルに達してきている。技はすごいし、着地も完璧に止めているし、技のさばき方もきれいで安定しています。これは内村選手のおかげでもあるということ」

 内村は「美しい体操」を提唱し、自ら実践しながら数々の金字塔を打ち立ててきた。その姿に世界が影響され、ここ数年で長足の進歩を遂げたというのだ。池谷氏は「昔は、各国のトップレベルの選手でも、技はたくさん入れていてもどこか汚かったり、ということがあった。今は相当美しくきれいに、上手になってきていて、個人総合で6種目やったときにそれがはっきりわかります」。それは白井も「すごく丁寧な実施に点が出ている。風潮的には審判が見やすい演技に点が出ているのかな」と感じている。

 世界のレベル全体を上げたことは“キング”の新たな功績と言えようが、それが東京五輪へ向けて体操ニッポンを追い詰めることにもなるとは…。「日本のレベルが下がっているわけではないのです。ただ世界はそれ以上にレベルを上げている。日本はもっともっと、レベルを上げていかないと戦えないということです」という池谷氏の言葉は、今後に重くのしかかりそうだ。