ゴルフの今季メジャー第3戦「全英オープン」(ロイヤルバークデールGC)が20日に開幕する。もちろん、注目は悲願の初メジャー制覇を狙う松山英樹(25=LEXUS)だ。世界ランキング2位にまで上り詰め、今大会も堂々の優勝候補に挙げられる“怪物”の強さはどこから来るのか? ゴルフ専門CS局「ゴルフネットワーク」で解説を務めるプロコーチの内藤雄士氏(47)がその秘密を分析する。

 松山の強さがどこにあるのか、内藤コーチはずばり“分析力”と指摘する。「今の松山はこれといった欠点がないスイングをしていますが、学生時代はもちろん、2年前のスイングとは全く違います。自分のスイングを冷静に分析して、欠点をコツコツと一つずつ直してきたからこそ、今があるんです」

 一例として挙げるのは「スピンアウト」という動き。「もともと、松山にはバックスイングで腰の回転量が大きすぎる傾向があった。結果としてダウンスイングで体が開き、スライスやこすり球が出る。本人も自覚して『どうしたら直るんですかねえ?』とその修正を課題に練習に取り組んでいました」

 内藤コーチがこんな言葉を聞いたのは、日本で賞金王に輝いたプロ1年目(2013年)のこと。「国内ではもちろん、メジャーでも2戦連続トップ10と、結果を出していましたから“これもオレの持ち味だ”と開き直っても不思議はない。それでも、松山は1か月後か、3年後、4年後かも分からないゴールを目指して矯正し、今では完璧に直しています」

 同じプロ1年目に内藤コーチはもう一つ、松山の強さを感じていた。「ある試合で私が指導する選手が一緒に練習ラウンドを回ったんです。その時はとにかく1Wが絶不調で正直、『松山もこんなことがあるのか、今週は(優勝は)ないな』と思っていました」

 この試合がプロ転向後初Vの「つるやオープン」(13年4月)だった。「後日、松山になぜ勝てたのか聞くと『短いコースなんで1Wはほとんど使いませんから』って言うんです。理屈はそうでも、多くの選手は1Wの不調が常に頭にあって、ゲームに集中できない。目の前のゲームとスイングの問題を完璧に割り切って考えられるのも、松山の特別な能力だと思います」。だからこそ、スイングの修正と結果を両立させ、急スピードで世界のトップ選手に上り詰められたわけだ。

 6月の「全米オープン」では2位。では、メジャー初Vの大きな期待がかかる「全英オープン」ではどんなプレーを見せるのか? 内藤コーチは谷原秀人(38=国際スポーツ振興協会)、矢野東(40)のコーチとして今年と同じロイヤルバークデールGCで行われた08年大会を経験している。

「初日午前スタートの谷原について歩いた時は横殴りの雨を傘を横にしてしのいでいたのですが、午後の矢野の組は雨がやみ、風も弱まって、言ってみればポカポカ陽気でした。あの日の午前の風が吹いたら技術ではどうにもならない。不平等だけど、これがゴルフの原点なんだと思い出させてくれるのが全英です」

 ちなみに予選ラウンドで谷原と同組だった当時の世界ランク2位フィル・ミケルソン(47=米国)は初日9オーバーの123位。最終的には19位と巻き返しており、初日136位から7位フィニッシュのアーニー・エルス(47=南アフリカ)と並んで不運なスタート時間に泣かされた典型例となった。

「今の松山は持ち前のショットに加えて、ショートゲームも飛躍的に向上している。天候はどうにもなりませんが、全英の神様が少しほほ笑んでくれれば、優勝争いが見られると思っています」

 自然との闘いとなる全英だけに、悲願達成には運も必要となるが、果たして…。