松山のキャディー・進藤大典氏が語る 絶頂期を思わせるT・ウッズ5年ぶり復活Vの劇的瞬間

2020年09月11日 10時00分

復活優勝で笑顔が戻ったウッズ(左)と松山の頼れる相棒・進藤氏(右上)

【東スポ60周年記念企画 フラッシュバック(23)】ゴルフの米男子ツアーの2019―20年シーズンは、新型コロナウイルスの影響によるシーズン中断があったものの、先週の「ツアー選手権」で終了し、ダスティン・ジョンソン(36=米国)が年間王者となった。この大会の歴史で最も印象的なシーンといえば18年9月23日、タイガー・ウッズ(44=米国)の復活Vだろう。本紙創刊60周年を記念した連載「フラッシュバック」では、当時、松山英樹(28=LEXUS)のエースキャディーとして間近で見続けた進藤大典氏(40)がスーパースターの「変化」を振り返った。

 ウッズは2週前に行われた「BMW選手権」を6位でフィニッシュし、復活を期待させる雰囲気で最終戦に乗り込んできた。進藤氏も「タイガー、(勢いが)きてるよね」というような話を松山としていたという。

 そしてウッズが初日に65をマークして首位発進すると、ギャラリーの熱気は一気に高まった。

 進藤氏 2日目からは「タイガー・イズ・バック!」「優勝だ!」という雰囲気になってました。普通は優勝というものは最終日のバックナインから意識するものですから、選手からすると「まだ早い」「落ち着いて」という感じだと思います。なので、まだ2日目だよ。大変だな…と思いながら見ていました。

 そのウッズに“スイッチ”が入ったと感じたシーンが3日目にあったという。

 進藤氏 どこかのホール間ですれ違った時に、まったく周りを見ずに自分の世界に入っていたんです。これが初日とかだったら手を上げて会釈したりするのですが、まったく違っていましたね。

 進藤氏は、松山が主戦場を米国に移した2014年以前にも、東北福祉大の先輩、谷原秀人(41=国際スポーツ振興協会)のキャディーとして05年に米ツアーに参戦した。この年のウッズは6勝を挙げ、絶頂期といっていい状態とあって、周りを寄せ付けない雰囲気だった。進藤氏の目にも、周りを見下しているようにも映ったという。

 前年終盤からこの年前半にかけて一時的に陥落したことはあったものの、このころは10年以上にわたって世界ランク1位に君臨していたのだから、そんな態度になるのもある意味、当然だった。

 その後の度重なるケガや私生活でのトラブルを経て復帰してからのウッズはフレンドリーになり、進藤氏に“ちょっかい”を出すこともしばしばだったという。しかし、この「ツアー選手権」では「強いウッズ」の雰囲気を自らつくり出していた。

 進藤氏 これは全力で勝ちにきてるな、と思いました。今回を逃すとしばらく試合もないし、いよいよ“その時”がくるのかな、という感じでした。

≪もしマキロイに負けていたら…過去の大物扱いになっていた可能性も≫

 進藤氏が松山とともに米ツアーを転戦するようになったのは14年から。ウッズはちょうどこのころから低迷期に入り、信じられないようなシーンを目撃することもあったという。

 進藤氏 アプローチイップスになっていました。フェアウエーの残り30ヤードからトップしたり、ザックリしたりというのを見たりしましたから。僕の知る範囲では、アプローチイップスを克服した人は、見たことがありません。私生活でも逮捕されたとかありましたし「完全に終わったかな」と思いました。

 16、17年シーズンはほとんど試合に出ず、このまま表舞台から去ってしまうかとも思われたが、18年から本格的に復帰。ここでも進藤氏は驚いたという。

 進藤氏 正直、どうなんだろう?と思っていました。それがむちゃくちゃ振ってるし、むちゃくちゃ飛んでましたね。

 3月の「バルスパー選手権」で2位になったウッズは、7月の「全英オープン」では6位。8月のメジャー「全米プロ」でも優勝にあと一歩の2位でフィニッシュしたこともあり、年始に500位台だった世界ランクは20位台にまで上昇した。

 だが、勝てない。優勝は13年の「ブリヂストン招待」が最後。18年は「全英」で最終日に一時首位に立つ場面もあったものの、40歳を過ぎ、もう勝てないのでは、との雰囲気がゴルフ界全体に漂いだしていた。

 進藤氏 それでも、日本の黄金世代やプラチナ世代が宮里藍ちゃんに憧れてゴルフを始めたように、今のPGAツアーは子供の時にタイガーに憧れた世代の選手が多いですから、勝つことは難しいかもしれないけど、メジャーで優勝争いしてタイガーらしさが戻ってきたことを皆、喜んでました。

 2週前の「BMW選手権」では初日に62をマークするなどして、6位と上々の成績で最終戦に臨んだウッズは、「ツアー選手権」でも初日を65で回って首位発進。2位以下に3打差でスタートした最終日は終盤の15、16番で連続ボギーを叩いたものの、2打差で逃げ切り、ついに5年ぶりの勝利を手にした。

 このVでツアー通算勝利数は「非常に大きな意味を持つ数字」とウッズ本人も言った「80」の大台に乗り、故サム・スニードの持つ最多勝記録まで2勝に迫った。翌年の「マスターズ」を制し、10月には日本で開催された「ZOZOチャンピオンシップ」に勝って82勝に並んだのは周知の通りだ。

 進藤氏 もし「ツアー選手権」で勝てていなかったら、次の試合までは期間が空くので「マスターズ」や「ZOZO」の勝利もなかったかも。最終日最終組を一緒に回ったのは、当時29歳のローリー・マキロイでしたが、ここでもしマキロイに負けていたら、世代交代にとどめを刺されていたかもしれません。

 そのマキロイは翌19年大会に優勝している。ほんの少しの運や巡り合わせが違っていて、この勝利が1年早かったら、ウッズは「もう勝てない、過去の大物」という扱いになっていた可能性すらある。

 昨年と今年は最終戦に進出できなかったものの、新型コロナウイルスの影響でシーズン中断があった今年は今月17~20日に「全米オープン」、11月には「マスターズ」が開催される。ここでツアー記録更新の通算83勝目、そしてジャック・ニクラウスの持つメジャー通算勝利数「18」にどこまで迫れるか(ウッズは現在15勝)が注目されるところだ。

 ☆…しんどう・だいすけ 1980年7月3日生まれ、京都府出身。明徳義塾中、高校から東北福祉大に進学。同大在学中に同学年だった宮里優作に誘われてキャディーを始める。2003年の米ツアー「ソニー・オープン」で優作がプロデビューしたのとともに自身もプロキャディーとしての活動を始めた。その後、谷原秀人や片山晋呉の専属になり、13~18年までは松山の専属キャディーを務める。今年1~3月には本紙でコースマネジメントのレッスン「考えるゴルフ」を連載。好評を博した。