苦しい時期も楽しかった――。国内男子ゴルフでプレーオフの末にツアー最終戦「日本シリーズJTカップ」(東京よみうりCC=パー70)を制し、生涯獲得賞金が史上最年少で10億円を突破した石川遼(28=CASIO)が激動の一年を振り返った。シーズン終盤に2週連続予選落ちと不調に陥ったが、腰痛で試合に出られなかった春先に比べれば前向きな状況。最後に今季2度目の“劇的復活”を果たした千両役者が明かす、「本音」とは?

 腰痛による欠場、棄権が続いた春先の苦しい時期を乗り越えた石川は、7月の「日本プロ選手権」から2連勝と復活を遂げた。ところがシーズン終盤は絶不調。日本、中国で行われた米ツアーで2週続けて下位(51、67位)に沈むと、翌週からは国内ツアーで2戦連続の予選落ちを喫した。

 どん底ともいえる状況にも「小さな発見は毎日あるんで、一日の終わりはいつも前向きでしたよ。最初に予選落ちした試合の後も『これなら来週は大丈夫』と思って練習を切り上げましたから。結果は次も全然ダメでしたけど(笑い)」。優勝した今だからこそ口にできる言葉かもしれないが、プレーできない時期もあった今季の石川にとってはこれが「本音」だろう。

 もちろん日々の発見は必ずしも正解ではない。次の日にはまた同じ課題に直面することもある。「常に考えているのは、どうすれば、フェースローテーション(スイング中のフェースの開閉)の少ないスイングができるか。そのために体や手を自分の感覚としてどう動かせばいいかを探している感じです」(石川)

 11月25日には宮崎でテレビマッチに臨み、今季大ブレークを果たした渋野日向子(21=RSK山陽放送)らと共演。収録が終わった後、ただ一人、会場に残って練習を続けた石川は「オレの焦りが表れているでしょう」とおどけた。

 そんな中でその週にシャフトを替え、翌週はヘッドも替え、試行錯誤を繰り返したことで、1Wは全く新しいものになった。さらには「日本シリーズ」でも新たな発見。「アドレスの前傾を維持することを意識しました。腰に負担がかかるので、20歳ごろに痛みが出てからはずっとできていなかったけど、今はその怖さもないので」。不安定な状態が続いていたティーショットは見違えるように安定した。

 これで辛うじてシーズン中に復活を遂げた石川は「焦ったかいがありましたよね」。再びおどけてみせた。

 とはいえ、この優勝に満足したわけではない。最終日(8日)、正規の72ホール目、プレーオフの1、2ホール目と18番パー3で3度続けて、グリーンを右に外した。特にプレーオフ1ホール目は手応えのある一打だったが、右のバンカー。「なぜそうなったのか、プレーオフ3ホール目でなぜ真っすぐ打てたのか、どちらも分からないのが引っかかりますね」。通算3度目となる日本タイトルとともに、オフに向けて新たな課題も持ち帰った。

 来年は東京五輪。「(出場は)首の皮一枚ですよね」とこの優勝で日本代表争いに生き残った。「可能性がある限り、出場した試合で優勝を目指していくしかないですね」。五輪への厳しい道のりも、石川にとっては楽しい時間になるはずだ。