【韓国・平昌9日発】第23回冬季五輪平昌大会が開幕。開会式は午後8時から氷点下4度の寒さの中で催された。日本選手団は体調を考慮し主力選手の多くが欠席したが、先頭で勇ましく日の丸を振ったのが旗手でノルディックスキー・ジャンプ男子の葛西紀明(45=土屋ホーム)だ。冬季五輪歴代単独最多の8度目の五輪に挑むレジェンドは、悲願の金メダル獲得とともにもう一つの野望実現を目指す。狙うはズバリ「国民栄誉賞」受賞だ。

 葛西がアリーナに向け、一歩ずつ歩きだした。ギリシャから始まり、日本の入場は62番目。大観衆に迎えられると、国旗を携えながら笑顔で手を振った。すかさず、貴賓席の安倍晋三首相(63)も応えた。ジャンプ界で世界に名をとどろかせる“日本の顔”は力強くも軽快な足取りで選手団先導の大役を果たした。

 葛西にとって特別な五輪が幕を開けた。実に45歳、8度目の五輪。W杯最年長優勝&個人最多出場、冬季五輪最多出場(今大会で更新)、五輪ジャンプ最年長メダリスト、世界選手権最多出場とギネス記録は5つも認定されている。
 それでも挑戦をやめないのは、まだ一度も手にしていない金メダル獲得のためだ。1998年長野五輪、金メダルに輝いた団体戦のメンバーから外れて20年。あの時の悔しさを忘れたことは一日たりともない。葛西には同じ日の丸を背負う仲間もライバルだった。

「悔しい思いをしたからこそ、ライバルがいたからこそ、ここまで続けてこれた」。彼らと肩を並べ、追い越す。いや、長野の歴史を塗り替える。個人ラージヒル銀、団体銅と2個のメダルを獲得した前回ソチ五輪後も消えない執念が、平昌への道のりをつくった。

 ソチシーズンはW杯で優勝を含む複数回表彰台に上がり、勢いをつけた。今季は最高5位と満足する成績を残せていない。それでも調子は上向きだ。初めて呼び寄せる家族のためにも奮起を誓っている。

 金メダルを目指す理由はもう一つある。冬季五輪初の「国民栄誉賞」受賞だ。レジェンドは五輪前、本紙にこう語っている。

 葛西:あーなんか、(頭の片隅を指して)この辺にチラチラ…、やっぱりありますね!

 8回の五輪出場だけでも前人未到の大記録。同賞は「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったもの」に贈られるだけに、受賞に値するとの声もある。しかし、レジェンドは「いえいえ」と首を横に振ってこう続けた。

 葛西:みんな(過去に国民栄誉賞を)もらっている選手は金メダルを取ったりしている。その最後の称号を、金メダルという称号を得て、胸を張って国民栄誉賞っていうものをもらえたらなっていうのはあります。

 過去にもなかなか例のない「国民栄誉賞」奪取宣言。葛西は自ら口にすることでモチベーションとし、悲願の金メダル獲得という誰もが納得する形で選出の栄誉を手繰り寄せるつもりだ。

 今大会はほかにもフィギュアスケート男子で連覇を狙う羽生結弦(23=ANA)や五輪の個人種目で日本女子初の2冠奪取の可能性があるスピードスケート女子の小平奈緒(31=相沢病院)らも国民栄誉賞候補だ。政界に太いパイプを持つ有力関係者は「多過ぎて困るね、候補者が」との見通しを示すが、アスリートの限界に風穴をあける葛西の動向はチェックしている。

 この日、葛西は「前回は主将、今回もまた旗手という大役を命じられて本当にうれしく思っている」とのコメントを出した。生でしか味わえない感動と興奮は競技への大きな活力になったはず。必ずや黄金に光るメダルをつかみ取るつもりだ。