【NHK杯】羽生のひと言「シュッ」に込められた意味

2016年11月26日 14時00分

今季世界最高得点で首位発進した羽生(ロイター)

 フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ最終戦・NHK杯(25日、札幌・真駒内セキスイハイムアイスアリーナ)の男子ショートプログラム(SP)で羽生結弦(21=ANA)は今季世界最高となる103.89点をマークして首位に立った。だが、国内初披露となった4回転ループでは着氷が大きく乱れ、GPシリーズでは3回連続の失敗。26日のフリーに向けては独特の表現で修正を誓ったが、“新兵器”は本当に世界最高記録保持者にプラスをもたらすものなのか――。

 

 これまでの白を基調としたものから、今季のSP曲「レッツ・ゴー・クレイジー」を歌うプリンスのイメージカラーでもある紫色の衣装にチェンジして臨んだ今大会。「悪いイメージもあったので」と気分転換を図ってリンクに立ったが、今回も完璧な4回転ループを見せることはできなかった。

 

 シーズン初戦のオータム・クラシック(10月、カナダ)ではSP、フリーとも着氷し、公認大会世界初の成功者となった。だがGPシリーズ第2戦スケートカナダではSPでヒザをつき、フリーでは転倒。多くの選手が跳ぶ4回転トーループよりも基礎点が1.7点も高い12.0点のジャンプとはいえ、実戦で成功しなければ今後の大きな武器にはなり得ない。

 

 この失敗を羽生はどう見ているのか。フリーに向けて、4回転ループの修正点として本人の口から出たのが「シュッとやってパッと下ります」という言葉だった。その意味を問われると「そんなもんですよ、僕の場合。今日はシュッが足りなかった。シュッはタイミング。自分の中では分かっているけど、言葉にするのは難しい。技術的なことをくどくどと説明しても仕方ないですし」と“羽生ワールド”全開で取材エリアを後にした。

 

 常人には理解不能な「シュッ」というひと言。ここに込められた意味についてフィギュア解説者の杉田秀男氏(81)は「直前の6分間練習でも完璧に決めていたように、羽生選手にとって4回転ループは跳べるジャンプなんです」としたうえで、この日のミスは「わずかな軸の乱れにある」と分析する。

 

「ループジャンプは右のバックアウトで踏み切り、同じ右のバックアウトで着氷するので、常に軸が右になければいけない。今日はその軸が外にずれてしまった。わずかにタイミングを修正すれば練習時のように真っすぐな軸で跳べる。それが“シュッ”なんでしょう」

 

 演技後、羽生は右手の親指と人さし指で“もうちょっと”というジェスチャーを繰り返したが、それはこのわずかなタイミングの狂いを意味していたのだろう。

 

 この日のSPでは2位のネーサン・チェン(17=米国)に15.95点の大差をつけたが、杉田氏は「若手の勢いは感じるが、力の差は点数以上にある。複数の4回転ジャンプが当たり前になっているだけに、ステップなどその他の部分の重要度が増している」。ステップ、スピンともに最高難度のレベル4を獲得。唯一の不安材料である4回転ループを「シュッ」と跳べれば「あと5点は伸びる」と本人も言うように、昨年のGPファイナルでマークした合計330.43点の世界最高得点の更新も現実味を帯びる。絶対王者の地位をますます不動のものとするために、わずかな誤差を埋めにかかる。