注目対決の行方は――。フィギュアスケート団体(4日、首都体育館)の男子ショートプログラム(SP)で、世界王者のネーサン・チェン(22=米国)が自己ベストを更新する111・71点のハイスコアをマーク。V候補の実力を発揮する一方で、五輪3連覇を目指す羽生結弦(27=ANA)に勝機はあるのか。現地で演技を見守った五輪2大会出場のプロフィギュアスケーター・鈴木明子氏(36)がプロの視点から両選手の決戦本番を占った。


 世界王者が銀盤で躍動した。チェンは冒頭の4回転フリップで4・24点の出来栄え点(GOE)をたたき出すと、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も着氷。基礎点が1・1倍になる後半に4回転ルッツ―3回転トーループのコンビネーションジャンプも決め、羽生の持つ世界最高得点(111・82点)に迫る高得点をマークした。

 鈴木氏は「平昌五輪後、ずっとチャンピオンであり続け、プレッシャーもあるかもしれませんが、すごくいい集中ができていたように感じました」と絶賛。演技前の6分間練習にも着目し「トリプルアクセルだけが、普段のネーサンと比べるとちょっと気になりました。逆に言うと、もっと伸ばせるなということにもなります。おそらく、より自分のベストができるように修正をかけてくると思います」と、さらに調子を上げてくる可能性を指摘した。

 現時点では金メダルの最有力候補がチェンであることは間違いないが、羽生に勝機がないわけではない。「今回で3回目ですし、五輪の戦い方と勝ち方を知っている。いい調整さえできていれば、合わせてくると思います。周りの期待を力に変えてきた選手ですし、五輪でのベスト演技を目指して全日本選手権後も仕上げてきているはずなので、期待できると思います。調整の仕方も含めてそこが羽生選手の強み」

 そこには独自の〝経験値〟があるからだという。さらに鈴木氏が明かす。「羽生選手は音へのこだわりがあって、音の聞こえ方であったり、音への表現一つひとつにすごくこだわりを持っています。以前アイスショーで(SPの曲を編曲した)清塚(信也)さんと共演したときに、私も同じショーに出ていましたが、リハーサルのときにピアノと動きの調整を清塚さんと細かくやりとりして、フィギュアスケートにとっての音楽をとても大切にし、こだわりを持っていると感じました」。ジャンプ至上主義の傾向が強まる中で、自分の原点を忘れない。ここに唯一無二の神髄が隠されている。

 運命の決戦は8日に個人SP、10日はフリーが行われる。「技術力が非常にあるからこそ、音にこだわりを持った表現ができている。特にSPはこだわり抜いたものが見られるのかなと思いますし、フリーは4A(クワッドアクセル)込みで完璧な演技だと思っているはずなので、それを目指してやってくれると思います」。大舞台を知り尽くす羽生の演技に、全世界が注目している。