これも王者の証しか。フィギュアスケート男子の五輪2連覇・羽生結弦(26=ANA)が思わぬ分野で〝人気〟を博している。著名人の名前をモチーフにした商標を出願するケースは後を絶たないが、来年の北京五輪を前にして羽生を連想させる複数のワードが出願されていることが発覚。一体どんな目的で商標が狙われたのか。出願元を直撃すると意外な回答が…。

 羽生が商標のターゲットになるのは今回が初めてではない。2019年夏には中国企業が「羽生結弦」を商標出願して話題になっており、強くて清潔感あるイメージを利用してひと儲けをもくろむ者は後を絶たない。

 北京五輪が迫る中、本紙が特許庁のデータベースを検索すると「羽生魂」「結弦」が出願されていた。今回もまた抜群の好感度を誇る羽生にあやかろうとしているのか?

 昨年11月に商標登録された「羽生魂」を出願した株式会社ジャパンインポートシステム(東京・中央区)に問い合わせると、担当者は「羽生選手とは全く関係ありません」と否定。「弊社は埼玉県羽生市にゆかりがあって商品を作ろうと企画したんです」と説明した。

 同社は「羽生魂」を19年8月に出願し、20年7月に一度は拒絶された。その理由は「『羽生魂』は平昌オリンピックにて羽生結弦選手が男子フィギュアスケートで金メダルを獲得した後に新聞等で広く取り上げられた語(中略)『羽生』の文字は『羽生結弦』氏の著名な略称と認識されるもの」(特許庁)。

 しかし、同社は不服として「いついかなる場合にも『羽生』といえば『羽生結弦』氏を指すほどに、略称として著名でしょうか」と意見書で反撃。「羽生」の文字は一般的に「埼玉県羽生市」の方がネットの検索ヒット数が多いことを示しつつ「いくら『羽生結弦』氏が著名人だとしても、地名の方が使用回数は遥かに多くなっています」(原文ママ)と主張した。これが認可され登録に至ったようだ。

 一方、「結弦」は昨年9月に出願された。こちらも当然ながら同様の理由で拒絶され、今年8月に正式に却下が決まった。出願した有限会社渡辺酒造店(岐阜・飛騨市)は反論しなかったようだが、なぜか? 担当者を直撃すると「申請はしましたが、あまり好ましくなかったと判断した」と説明しつつ「私たちは羽生結弦選手のファン。ズルい人たちが商標を使わないように押さえておこうと考え『結弦』を守るために出願しました」と裏事情を明かした。

 過去には女子テニスの大坂なおみ(日清食品)が19年2月に全豪オープンを制覇した直後には一般男性によって「大阪城なおみ」が出願され、約1年半後に「本人を想起させる」との理由で拒絶。男子テニスの錦織圭(日清食品)は〝悪用〟を未然に防ぐためか、愛称の「エア・ケイ」を自ら商標登録している。

 今回の2件に悪意はなかったが、北京五輪に向けて羽生人気に便乗する企業が出てくる可能性は大。これもまたスーパースターの宿命といえそうだ。