羽生舞台裏では一人勝ち ライバルこぞって白旗ムード

2014年11月29日 16時00分

羽生が演技を終えると無数の花がリンクに投げ込まれた

 フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ最終戦NHK杯初日(28日、大阪・なみはやドーム)、男子ショートプログラム(SP)でソチ五輪金メダリストの羽生結弦(19=ANA)は4回転ジャンプなどに失敗し、78・01点で5位発進となった。8日の中国杯フリーでの流血事故後初となる演技では精彩を欠いたが、舞台裏では“主役”を譲らない。まさに「羽生劇場」が繰り広げられていた――。

 

 

 苦難を乗り越え氷上に立った。ショパンの曲「バラード第1番」に乗って演技をスタートしたが、冒頭の4回転トーループで転倒。2連続3回転ジャンプも1つ目で転んで単発に。得点は78・01点と普段の羽生にとっては考えられない点数だったが「悔しい。悔しいのみです。結果的にこうなったのは自分の実力の足りなさ。ケガではない」と言い訳はしなかった。


 8日の中国杯フリー前の6分間練習で中国選手と激突し流血の惨事。9日に負傷が全治2~3週間と診断された。直後は痛みで眠ることもできず、歩行すら大変な思いをした。「どうしようもなく痛かったので両親に『NHK杯に出られないかも』と相談した」ほどだったが「中国杯ではファイナルに出たいという自分の意思を尊重して滑らせていただいた。その演技を無駄にしたくなかった」と出場を決意した。


 ただ、氷上練習の開始が1週間前とあって万全にはほど遠かった。5位に沈んだのはある意味仕方のないところだが、舞台裏ではやはり羽生が“主役”だった。今大会、各国代表が集まる会議では中国杯での“羽生アクシデント”を踏まえて「GPシリーズも最後。6分間練習ではお互いよく気をつけて、滑走しよう」との申し合わせが行われ、選手にも伝えられたという。


 そうした関係者による注意喚起もあって、今回はアクシデントを回避。それでも羽生がリンクに登場した際には、会場中に妙な緊張感が走った。すべての観客が羽生の一挙手一投足に注目。他の選手と少しでも接近するたびにざわめきが起き、何事もなく終えると会場全体からホッとする声が上がった。


 さらには、SP3位までが臨む記者会見には不在だったが、話題は五輪王者で一色。首位に立った無良崇人(23=HIROTA)は「彼がこの場にいないのは想像だにしていなかった。ましてや僕がセンター(1位の席)にいるなんて」と素直な感想を口にした。


 2位ジェレミー・アボット(29=米国)は「羽生は戦士のような人。意気込んで今日より上げてくると思う。抜かされるのは必然だと思うけど、自分のために滑りたい」と29日のフリーで羽生に逆転される…とまで予測した。3位の村上大介(23=陽進堂)にいたっては「彼は僕のアイドル。がんばってほしい。僕は順位は落ちると思う」と話したほどだった。


 今大会で3位に入ればGPファイナル(12月、スペイン)出場が決まる。羽生は「GPファイナルに行きたいとばかり言っていたが、今、気がつきました。これはNHK杯なんだぞって。今は今だし、この大会に集中しないといけない。明日は一つひとつ丁寧に滑りたい。今でも優勝したいと思っている」と話したが、リンク外では「そりゃ3位には入るでしょう」(フィギュア関係者)との声がもっぱらだ。


 羽生一人だけ、別次元にいると言っても過言はない。しばらくはリンクの内外で王子が主役の座に君臨し続けそうだ。