フィギュアスケートの世界選手権初日(26日、さいたまスーパーアリーナ)の男子ショートプログラム(SP)で、ソチ五輪5位のが98・21点の世界歴代3位の高得点を叩き出し首位に立った。同金メダルの羽生結弦(19=ANA)が冒頭の4回転ジャンプで転倒し91・24点で3位発進したのとは対照的に、五輪からわずか1か月で今大会にピークを持ってきた。この裏には“氷上の哲学者”らしい「瞑想部屋」での学習体験があったという。

 約1万7000人の観客が総立ちで拍手を送るなか、町田はラストのキメポーズのまま、しばらく動かなかった。これまで会心の演技の際には見せてきた派手なガッツポーズも封印。「氷の上にいる間すべてを作品として届けたかったので、ガッツポーズはいらない、という判断をしました」。 プログラムを「芸術作品」としてこだわる男らしい判断だ。「町田樹史上最高傑作のプログラムを町田樹史上最高の形で披露できました。得点よりも、1年間のベストの演技ができたことがうれしいし、誇りに思う」。初の世界選手権で渾身の「エデンの東」を演じきった。

 ソチ五輪SPでは3回転ルッツが2回転になる痛恨のミスで11位発進。フリーで巻き返したが「義務」と語っていたメダル獲得はならず、悔しい思いは残った。「五輪では本当に多くのことを学んだ。そのおかげで、アスリートは五輪後燃え尽きると言われているが、帰ってきたその日からモチベーションが高く、やる気が出ました」

 実はこの言葉通り、ソチでは本当に「五輪反省学習」を行ったという。町田は出場した団体戦、個人戦ともに五輪の前半にあり、閉会式前に行われたエキシビションにも参加するため、ずっとソチに滞在。空いた時間はただ競技を観戦するだけではなく、たった一人でマルチサポートハウス内の部屋に3時間ほどこもった。その間は五輪を体験して気がついたこと、運営面で参考になったこと、そして反省点を何度も頭の中でまとめた。あまりに熱の入った“学習”ぶりに、関係者の間では「瞑想部屋」という呼称も付いたほどだ。

 まさに鉄は熱いうちに打て。イベントの裏方業務にも興味がある町田にとっては重要な時間。さらに自分の演技も含め五輪を総括することで世界選手権に向かう気持ちの整理をしていたのだ。

 指導する大西勝敬コーチ(59)も「びっくりした。ソチ五輪を経験して、気持ちの余裕が出てきている。ここへきてまたすごく成長している。ひと皮むけたような感じ」と“瞑想部屋効果”に驚きを隠せない。

 今回は町田が「どうしても来てほしい」と頼み来日した振付師のフィリップ・ミルズ氏がリンクサイドで見守った。同氏のアドバイスもあり、さらにプログラムを磨き上げたことも好演技につながった。

 ここまでくれば、目指すは初出場初優勝だ。「フリー(28日)は最後まで何があるか分からない。気を引き締めて冷静に臨みたい」。数々の名言を生み出したフィギュアスケート界の超個性派が“氷上の哲学者”らしく世界の頂点に王手だ。