日本オリンピック委員会(JOC)は14日、ソチ五輪日本選手団の旗手にカーリング女子日本代表主将の小笠原歩(35=北海道銀行)を、主将にW杯最年長優勝を飾ったノルディックスキー・ジャンプ男子の葛西紀明(41=土屋ホーム)を起用すると発表した。葛西は五輪7度目にして初の大役に心躍らせているが、実は全日本スキー連盟(SAJ)が猛反発していたという。いったい何があったのか? 本紙だけが知る舞台裏を公開――。

 ソチ五輪の“顔”になった葛西は「今シーズンはスタートから調子がいいので、もしかしたら話があるかなとひそかに期待していた。それが7回目の出場で現実となって大変名誉であり、うれしい」と喜びを表した。

 W杯個人第13戦(11日、オーストリア)で41歳7か月にして優勝を成し遂げ、一躍“時の人”になった。五輪を知り尽くし、国際的な知名度も高い。なおかつ金メダル獲得の可能性のあるベテランの主将起用は当然の判断だろう。

 しかし、この決定に素直に喜べないのがSAJだ。起用が発表される直前まで、古川年正競技本部長(66)は本紙の取材に「うちの選手にはあまりプレッシャーをかけたくない。彼は調子もいいでしょう。成績を出すほうが大事」と難色を示していた。SAJは強化費の削減で苦しい運営を強いられている。一見華やかに見える旗手や主将は、開会式では長時間の拘束を余儀なくされる。しかもソチ五輪の男子ジャンプは開会式の翌日にノーマルヒルの予選があり、日程的にも難しい。慎重になるのは、少しでも競技に専念させてあげたいというSAJの親心でもあった。古川競技本部長は「団長にもそういう話はしましたよ。『そうですよね』と言ってました」と日本選手団の橋本聖子団長(49)に事実上の「NO」を通告している。

 別のSAJ関係者も「主将はベテランじゃないと無理。大変だよ」と前置きしつつ、就任に否定的だった。「葛西はああいうの好きじゃない。カーリングなんかいいじゃないの。カーママぴったり」。これまで6度の五輪に出場しながら、葛西は選手団を代表するような要職を務めた経験はない。さらに前回バンクーバー五輪で主将を務めた同じジャンプの岡部孝信(43=雪印メグミルク)が、本番では不調から一度も飛ぶことができなかった。「岡部は前回主将で飛ばなかった。JOCは(葛西選出に)引っかかるんじゃないか」(同)

 こうした見方の中、最終的な決め手となったのは本人の強い意志だ。昨年末に葛西は本紙にこう打ち明けている。「もちろん、やりたいですよ。(旗手か主将)どちらでもいいです。選ばれればやりたいです」――。

 その後のW杯制覇で、SAJと各競技団体の話し合いの中でも、葛西を推す声が増加。フィギュアスケートの浅田真央(23=中京大)やジャンプ女子の高梨沙羅(17=クラレ)らとともに10人程度の最終候補者に残り、最後は葛西の熱意を感じ取った橋本団長がゴーサインを出した。

 葛西は2009年から所属する土屋ホームの監督を兼任。競技に対する熱心な練習姿勢は、誰からも一目置かれている。そうした日々の努力が人間的にも成長させ、周囲の予想を覆す結果をもたらしたといえそうだ。