【カナダ・ケロウナ26日(日本時間27日)発】冬の絶対王者が真夏の“主役”になる!? フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第2戦「スケートカナダ」の男子フリーが行われ、前日のショートプログラム(SP)で首位発進した五輪2連覇の羽生結弦(24=ANA)が212・99点をマーク。今季世界最高の合計322・59点で圧勝した。氷上のプリンスは今年も冬季スポーツの話題を独占するが、ここへきて東京五輪の聖火リレー最終ランナーの大本命に急浮上している。

 別次元の優勝だった。冒頭の4回転ループは減点となったが、その後はすべてのジャンプで加点。スピン、ステップシークエンスも最高評価のレベル4を獲得し、2位に約60点差をつける圧勝劇となった。

 演技を終えて「勝ったー」と雄たけびを上げた氷上のプリンスに対し、会場から大量の「くまのプーさん」のぬいぐるみが投げ込まれるおなじみの光景。試合後は「久しぶりに心の中から自分に勝てた(と思える)演技。SPとフリーが揃うことが長い間なかったのでうれしい」と喜んだ。

 羽生はこれで9月の「オータムクラシック」に続く2大会連続Vとなり、シーズン序盤からエンジン全開。フリーのプログラムについて「まだ30%とか20%だと思っています。最終的には4回転アクセル(4回転半ジャンプ)を入れたい」と人類初ジャンプの達成者になる使命感に燃えているが、その一方で来夏の東京五輪の聖火リレー最終ランナーという究極の“使命”を担う可能性が高まっている。

 五輪招致が東京に決まった直後から「誰が最終ランナーを務めるのか?」は注目の的だった。過去の事例では当該国のスポーツ界の発展に貢献した元五輪メダリストが多い。前回2016年リオ五輪ではアテネ五輪マラソン男子銅メダルで地元ブラジルのバンデルレイ・デリマ氏(50)が務めた。このため東京の有力候補として柔道で五輪3連覇の野村忠宏氏(44)、女子レスリングで五輪3連覇の吉田沙保里(37)、さらに今年引退した野球界のスーパースター、イチロー氏(46)らの名前が挙がってきた。昨年、歴代最年少で国民栄誉賞を受賞した羽生もかねてその一人に数えられていたが、ここへきて2人が“脱落”したのだ。

 25日、東京五輪組織委員会は聖火リレー到着式の概要を発表。本紙既報の通り、来年3月にギリシャから日本へ聖火を運ぶ大役に選ばれたのが野村氏と吉田だった。かねて最終ランナーに名乗りを上げていた吉田は「諦めてはないです(笑い)。もし最後に走れるチャンスがあるなら…」といまだに狙うが、現実的に聖火輸送の最初と最後の“両取り”の可能性は低い。「同一五輪で聖火ランナーを2回務めることはない」という暗黙の了解が存在するからだ。
 そうなるとイチロー氏と羽生の一騎打ちとなるが、イチロー氏は五輪には出場していない。さらに東京五輪には「復興五輪」という大きなテーマもあり、東日本大震災で被災した宮城・仙台市出身の羽生はこれ以上ない適任と言える。

 シーズン序盤で連続優勝。いまや冬の風物詩となった“ゆづフィーバー”は今季も収まる気配がない。スケート界の王者が真夏の祭典の大役も担うとすれば…。もはやスポーツ界の「キング・オブ・キングス」の地位は不動だ。

【1964年大会】2020年東京五輪の聖火リレーは同年3月26日に東日本大震災の被災地・福島県をスタート。121日間かけて47都道府県を巡る。53万5717件の応募があった公募のほか、推薦を含めて選ばれるランナーは約1万人。

 アジアで初めての開催となった1964年の東京大会では、広島原爆投下日に広島県で生まれた坂井義則さんが10月10日の開幕日に最終走者を務めた。

 当時の日本は戦争の荒廃から復興し、軍事国家が平和国家に変わった。世界の一員として世界の仲間を迎える五輪を象徴するのが、坂井さんを起用した聖火最終ランナーだった。

 この年、早大1年生の坂井さんは陸上競技の選手として男子400メートルなどで五輪出場を目指していたが、7月に行われた選考会で敗れた。失意のうちに帰郷すると、東京では聖火ランナー起用の話が持ち上がり、報道合戦の渦中に。決まったのは8月だった。聖火最終ランナーは近年「サプライズ」が常識と化しているが、当時は事前に発表されたという。

 また、サプライズかつ劇的な要素を増やすためか、98年長野冬季大会のように最終走者(陸上・鈴木博美)と点火者(フィギュアスケート・伊藤みどり)を分ける形式も見られる。