【カナダ・オークビル14日(日本時間15日)発】フィギュアスケートの「オータムクラシック」男子フリーが行われ、前日のショートプログラム(SP)で首位発進した五輪2連覇の羽生結弦(24=ANA)が180・67点をマークし、合計279・05点で優勝を飾った。今季初戦できっちり結果を出したが、こんなことで満足する男ではない。人類初の「クワッドアクセル」(4回転半ジャンプ)の習得、さらに先の野望に向けて突き進んでいく。

 例年と違って初戦から「完成形」を求めた今大会。SPで冒頭のジャンプを失敗した前日は「いいかげんSPでミスするのはやめなよって思う」と自分を律し、強い気持ちでこの日のフリーに挑んだ。

 昨年と同じフリー曲「Origin」が流れると、氷上は静寂に包まれる。軽やかに動きだした羽生は、自身が2016年の今大会で史上初めて成功させた4回転ループへ助走を取った。

 ギネスにも登録されている思い入れあるジャンプだったが、着氷時に乱れてステップアウト。続く4回転サルコーも着氷で体勢を崩したが、ともに何とかこらえた。

 中盤も2つの4回転トーループで回転不足に。それでもステップとスピンで全て最高難度のレベル4を並べるなどして得点を積み上げ、今季初戦で期待通りの優勝を手にした。

 フィニッシュの瞬間はいつにも増して息遣いが荒かった。ゆっくりと立ち上がり、ようやく笑顔になったプリンスに対し、現地に駆け付けた日本人ファンは割れんばかりの声援を送り続けていた。単なる優勝ではない何かしらの「期待感」を抱かせるのは、羽生の果てしない野望がファンに伝わるからだろう。

 今季、羽生はSP、フリーともプログラムを変えていない。その理由は2つある。一つはリベンジの意味合いだ。昨季は右足首負傷で4大会しか出られず、3月の世界選手権ではネーサン・チェン(20=米国)に敗れて銀メダル。「このプログラムで借りを返す」という強い気持ちがあった。

 そして、もう一つの狙いこそ、クワッドアクセルの完成だ。「今は本当に4回転半ジャンプをするためにスケートをしてるなって思う。そのために生きている」と話す羽生は大会前、人類初の大技を成功させるために、体をつり上げる補助器具・ハーネスを使って5回転ジャンプに取り組んでいることを明かした。プログラムをあえて昨季と同じにすることで、この練習に集中しているというわけだ。

 今季中にはプログラム中のいずれかのジャンプをクワッドアクセルにすることを目標にしており、今シーズンを締めくくる世界選手権(来年3月、カナダ・モントリオール)で初披露する可能性も十分ある。

 さらに夢には続きがある。まずは、このクワッドアクセルを含めた全6種類の4回転ジャンプをコンプリートすることだ。現時点で羽生はトーループ、サルコー、ループ、そして封印中のルッツの4種類をクリア。これに習得中のフリップ、アクセルが完成すれば4回転全制覇となり、もちろん史上初。さらに練習のための5回転サルコーもハーネス付きながら着氷しており、来季以降に完成する可能性もゼロではない。

 5回転ジャンプの基礎点はまだなく、国際スケート連盟(ISU)も検討に入っているが、羽生の動向次第ではルール作成に慌ただしくなるだろう。

 次戦は10月25日開幕のグランプリ(GP)シリーズ第2戦のスケートカナダ。シーズンは始まったばかりだが、目指すのは常に「前人未到」。3連覇がかかる2022年の北京五輪についても「常に強い自分でありつつ、その先にそれ(五輪)があったらと思う」と出場を視野に入れていることをこの日初めて明かした。

 羽生が現役である限り、楽しみは無限にある。