銀メダル・羽生結弦「負けは死」発言の波紋

2019年03月26日 11時00分

「負けは死」発言が波紋を呼んだ羽生(左)

 アンチの批判を一刀両断――。フィギュアスケートの世界選手権(さいたまスーパーアリーナ)男子で銀メダルを獲得した羽生結弦(24=ANA)の発言が、一部で物議を醸している。右足首負傷から約4か月ぶりの復帰戦となった今大会、ネーサン・チェン(19=米国)との死闘に敗れた直後に出た「負けは死と同然」という言葉だ。ネット上では賛否両論が広がる中で、かつて“危険な発言”で世の中を騒がせたあの人が本紙に緊急提言した。

 発端は23日に行われた男子フリーだった。ショートプログラム(SP)3位発進の羽生は、12・53点差の首位チェンを逆転すべく渾身の滑りを披露。フリー(206・10点)、トータル(300・97点)ともにシーズン自己ベストを更新したが、それを上回る演技を見せたチェンに届かず、銀メダルとなった。

 ショッキングな発言はその直後に飛び出した。インタビュアーに心境を聞かれた羽生は開口一番で「正直、悔しいですね」とひと言。さらに演技を振り返り、こう悔しさを表現した。

「やっぱり負けには負けっていう意味しかないので。ハッキリ言って自分にとって、負けは死も同然だと思っているので。もうホントに…ホント、勝ちたいです」

 この映像は生中継していたフジテレビで流されたが、インタビュー中の羽生は笑顔。鬼気迫る発言というよりは、悔しい気持ちをやや“デフォルメ”して表現した感じだ。さらに、その後のメディア向けの取材や会見ではこうした表現は一切なく、むしろ戦ったチェンへの感謝の気持ち、他の選手へのリスペクトを口にした。

 しかし、今のご時世はネット住民が許さない。「負けは死も同然」というフレーズだけ切り取られ、ネットニュースやSNSで独り歩き。すると「自分より下位の選手に対して非常に失礼」「軽率に『死』という言葉を使うべきではない」「病気と闘っている人がどういう気持ちになるか」などと、あっという間に批判も広がった。

 この事態に「待った!」をかけるのが、教育評論家で画家の野々村直通氏(67)だ。羽生の発言をニュースで知ったという同氏は「スケートに命を懸ける彼らしい発言。批判される筋合いはない」と一刀両断。続けて「本気で努力しているから、こういう言葉が出てくる。オレもそんな心境だったよ」と漏らした。

 ご存じの通り、野々村氏といえば開星高(島根)の野球部元監督。2010年のセンバツ高校野球1回戦で21世紀枠の向陽高(和歌山)に敗れて「末代までの恥」「切腹して死にたい」と発言し、大バッシングを受けて辞任に追い込まれた。自身の経緯を踏まえた上で、野々村氏は羽生をこう擁護する。

「言い過ぎだとか、マナーだとか言う人がいるけど、すべてを犠牲にし、命を削り、死ぬ気で努力する羽生選手の気持ちが分かるのか。彼は生半可じゃない、誰にもマネできないことをやっている。僕は覚悟を持ったすてきな言葉だと思いますよ」

 大会後に羽生は来季以降に人類初となる「クワッドアクセル(4回転半ジャンプ)」の挑戦を明言。「もっと貪欲に、もっと強くなりたい」と熱く語った。

 敗戦を「死も同然」と表現した羽生に対して野々村氏は「本気で向き合っている証拠」と賛辞はやまない。そこには勝負事に「腹切り」覚悟で臨む男にしか分からぬ美学があるということか。