逆転V 紀平梨花は“女ゴジラ”だ

2019年02月26日 11時00分

【オランダ・ハーグ24日発】注目されるほど強くなる――。フィギュアスケート・チャレンジカップの女子フリーで、ショートプログラム(SP)2位の紀平梨花(16=関大KFSC)が141・90点をマークし、合計208・34点で逆転V。シニア転向以来の国際大会連勝を「6」に伸ばした。最大目標の世界選手権(3月20日開幕、さいたまスーパーアリーナ)へ向けて高まるばかりの期待に懸念の声も上がるが、心配ご無用。ニューヒロインには類いまれな“鈍感力”があるからだ。

 いまやフィギュア界では「逆転の紀平」なる言葉が定着しつつある。SPで今季最低の66・44点(2位)でも負ける気がしなかった。冒頭のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を着氷し、前日の失敗を一夜にして修正。その後も3回転ルッツからの連続ジャンプを成功させ、ノーミスで演技を終えると右手で拳を握った。年頭の初詣で絵馬に書いた「今年全ての試合でガッツポーズ」の“公約”(本紙既報)をきっちりと守った。

 これで国際大会6連勝に加え、4度目の逆転V。「私の今できる最高かなというくらいの演技。世界選手権へ自信になる演技だった」(紀平)。もう誰も止められない破竹の勢いで、最大目標へと向かう。その自国開催の世界選手権は男子の羽生結弦(24=ANA)が復帰予定ということもあって、チケットが一部転売サイトで約5~10倍となるほど人気も過熱。紀平は断然V候補として、これまでにないほどの重責を背負うことになる。

 アスリートには2種類あり、注目を浴びてメンタルが崩れるタイプ、逆に周囲の期待を原動力に成長するタイプに分かれる。女子テニスの大坂なおみ(21=日清食品)は典型的な前者だろう。世界ランキング1位ながら、先日は格下に大敗して「注目されることは好きじゃない」とうなだれた。一方、紀平は後者だ。実際、今大会前に自身についてこう話していた。

「注目されて別に悪くなることはなく、むしろ自分は良くなっています」

 フィギュア界にはかねて「注目され、騒がれ過ぎた時が心配」と警鐘を鳴らす声があったのは確かだが、紀平は逆に注目を楽しんでいるようにさえ見える。上ヶ原中学校(兵庫・西宮市)で紀平の学年主任を務めた中村吉次郎教諭によれば「3年生の時はもう有名人。クラスメートに『サインちょうだい』とねだられていましたが、全く偉ぶることなく、ニコニコ対応していました」。

 その裏に潜むのは“鈍感力”だ。昨年12月にGPファイナル制覇から帰国した際、周囲の喧騒について「私は特に新聞もテレビも見ないので…。周りの声とか意識していない」と語っていた。自分にとってプラスになる注目は“栄養”に変えるが、マイナスになり得る雑音は右から左へ流す。紀平を最も近くで見る浜田美栄コーチ(59)も「あの子はあまり深く考えていない」と話している。もちろん演技のことはとことん考える。試合に集中することで周囲の声をシャットアウトし、強制的に鈍感になっているのかもしれない。

 1月に引退したレスリング最強女王の吉田沙保里(36)は注目をパワーに変える天才。元ヤンキースの松井秀喜氏(44)はいい意味で鈍感さを持つ。その2つの要素を兼ね備えているのだから、紀平がメンタルで崩れるわけはない。「世界選手権はものすごいプレッシャーだと思う」。その言葉に悲壮感は一切ない。重圧の分だけ、大仕事をやってくれそうだ。

【無敗の“神衣装”】紀平はシニア転向以来、フリーは8大会すべて1位。そのうち逆転Vが4回と、圧倒的な強さを誇る。今季フリーで着用している漆黒の衣装について、本紙は以前に“神衣装”として紹介。その無敗神話はいまだ破られておらず、効果はまだまだ続いている。

「逆転の紀平」を支える衣装は、バレエ・ダンス用品の総合メーカー「チャコット」で作られた。「大人のカッコ良さ」をテーマにし、黒地に描かれた稲妻のデザインは、激しい雷鳴から始まる曲「ビューティフル・ストーム」と絶妙にマッチ。「すごく着心地もいいし、かわいく作ってくれてうれしい」と大満足の紀平は世界選手権でも当然、同じ衣装を着る。

 それだけではない。来シーズンの構想について「曲は何曲か(候補が)ありますが、衣装はチャコットで作ります!」と明言。相性抜群、ゲンのいいメーカーの不思議なパワーに来季もあやかるつもりだ。

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