逆転女王に“落とし穴”はあるのか。フィギュアスケートの四大陸選手権(カリフォルニア州アナハイム)で初出場優勝を飾った紀平梨花(16=関大KFSC)が、いよいよ世界選手権(3月20日開幕、さいたまスーパーアリーナ)に初挑戦する。シニア転向後の国際大会は無傷の5連勝、フリーに至っては7大会連続1位と圧倒的な強さを誇っており、もはや敵ナシ。しかし、本紙は気になる事実を発見! 不安材料になりかねないデータの「意味」に迫った。

 四大陸選手権では開幕直前に左手薬指を亜脱臼。ショートプログラム(SP)で5位と窮地に陥ったが、フリーでは大技のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を決めて逆転Vを飾った。シニア転向以来、紀平の黄金パターンになりつつあるのが「SP出遅れからのフリー巻き返しV」――。どんなピンチに立たされても、最後は必ず立て直す修正力は16歳とは思えないが、裏を返せばスタートの“つまずき”が危険信号と見ることもできる。

 紀平は全7大会でSP冒頭にトリプルアクセルを跳んでいるが、きっちり着氷して基礎点8点以上をマークしたのは2回(18年の西日本選手権とGPファイナル)のみ。その成功率は2割8分6厘という低アベレージだ。シニアデビューのオンドレイ・ネペラ杯、グランプリ(GP)シリーズ・NHK杯、全日本選手権では転倒し、GPフランス杯、四大陸選手権では回転不足(1回転半)で「0点」だった。

 フリーの圧倒的演技のおかげで、このミスはきれいにかき消されているが、世界選手権へ向けて不安はないのか。元国際審判員の肩書を持つフィギュア解説者の杉田秀男氏(84)は「SPの最初のジャンプは技術的なことではなく、メンタルでしょう」と説明する。

「最初のジャンプはどの選手も緊張します。特にSPは2分50秒と短い時間に3つしかジャンプを跳べない。失敗すれば大きく得点に響く。精神的にはフリーよりもはるかに難しいですね」

 紀平の場合、その冒頭のジャンプが人生を懸けて磨いてきたトリプルアクセル。「最大の武器でもあり、精神的プレッシャーでもある」(杉田氏)。つまり“もろ刃の剣”だ。実際、紀平はSP冒頭のトリプルアクセルを5回も失敗しているが、成功したGPファイナルはSPで世界最高得点をマークしている。

 SP冒頭ジャンプの成功率が世界選手権に与える影響について、杉田氏は「紀平選手はメンタルが強いので大丈夫」と断言する。「彼女は冷静に自分を見つめてミスを修正し、さらに精神面では失敗を引きずらない。気持ちを完全に切り替えて次へ進んでいます。正直言って、手がつけられない状態です」

 注目すべきは、SPの出遅れよりフリーでの“無双状態”のほうだという。普通なら致命傷になるはずの失敗を冒頭で犯しても、最後は勝てる。フリーの自信がむしろ冒頭の不安を打ち消しているのだ。本紙が算出したデータはウイークポイントというより、むしろその後の強さを演出するものかもしれない。

 紀平自身は世界選手権へ向けて「SP、フリーで(トリプルアクセルを)3本決めた完璧な演技をしたい」。妥協なくさらなる進化を目指す。