フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第4戦・NHK杯(広島グリーンアリーナ)女子で、日本勢初のデビュー戦Vを果たした紀平梨花(16=関大KFSC)はいったいどこまで伸びるのか。10日のフリーでは2度のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を成功させるなど、合計224・31点を叩き出し、今季世界2位の高得点をマーク。トリプルアクセルの使い手だった国民的ヒロイン・浅田真央(28)の後継者として期待される新星に広がる夢と今後の課題に迫った。

 シニア1年目の紀平が衝撃のGPデビューを飾った。9日のショートプログラム(SP)ではトリプルアクセルで転倒して5位と出遅れたものの、フリーでは3回転トーループへとつながる冒頭の連続ジャンプ、直後の単独ジャンプと2本のトリプルアクセルを成功させ、SPでつけられた6・58点差を逆転した。

 トリプルアクセル以外でもミスはなく「自分のほぼ最高の演技ができた」(紀平)。次戦に予定するフランス杯(23日~、グルノーブル)では平昌五輪銀メダルのエフゲニア・メドベージェワ(18=ロシア)と激突。再び上位に食い込めば、GPファイナル(12月6日~、カナダ・バンクーバー)への道が開ける。

 優勝から一夜明けた11日、紀平は「ファイナルは考えてもいなかったけど、チャンスが出てきたので狙っていけるようにしたい」と意欲を見せた。憧れの真央も果たせなかったデビュー戦Vについては「やったことがないことをやったという実感はない。これからも真央さんに近づけるように頑張りたい」とさらなる向上を誓った。

 トリプルアクセルという大きな武器を持ち、平昌五輪金メダルのアリーナ・ザギトワ(16=ロシア)が9月のネーベルホルン杯で叩き出した今季最高得点238・43点に次ぐ高得点をマークしただけに、一気に世界の頂点も期待される。元国際審判員でフィギュア解説者の杉田秀男氏(83)は「紀平選手は身体能力が素晴らしい。昨季、今季と大きく成長している」と高く評価する。

 その一方で課題も指摘する。「今は下から上がってきた勢いがすごいが、技術を試合で発揮するには精神面が重要。今回、大きな舞台でSPでは失敗、フリーでは成功したことをどう生かせるか」。勢いだけでは立ち行かなくなった時を見据え、その“壁”を乗り越える心の準備をしておく必要性を説いた。

 さらに「上位の選手ほど、世界選手権(来年3月、埼玉)に向けて仕上げていく。今、得点が出ていない選手が今季はダメかというと全然、そんなことはない」。他の選手がプログラムを仕上げていく中で、同じスピードでレベルアップを図らなければ“世界2位”をキープするのは難しいというわけだ。

 だが、紀平にはそんな心配を上回る期待の大きさがある。トリプルアクセルの先駆者の伊藤みどり氏(49)は「軽やか。今どきの回転軸のつくり方で効率のいい跳び方をしている」と分析し「これからも跳び続けて、世界のトップと戦っていってほしい」とエールを送った。

 もちろん、まだシニア1年目の16歳。「守るものはないので伸び伸びやればいいし、それが今の強み。結果を求める必要はありません」と杉田氏も“無欲”の滑りに期待する。今季いきなりシンデレラストーリーを成し遂げる可能性は十分。逸材の夢は無限に広がっている。