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「広島のせんとくん」が悲運の雨中敗戦から学んだこと


往年の投球フォームを披露する浜田大貴

【気になるアノ人を追跡調査!野球探偵の備忘録(53)】高校野球100年の歴史で史上唯一、甲子園で2度の雨天ノーゲームを挟んで敗れたのが2009年の広島・如水館高校だ。その試合でリリーフ登板し、一死も奪えず降板した1年生投手は技術を磨き、2年後再び甲子園に戻ってきた。全国8強の原動力となり、愛嬌のある顔立ちから「広島のせんとくん」と呼ばれた浜田大貴が、現役引退を決意した理由と知られざる現在を明かした。

「それまでは野球で緊張したことがなくて『緊張? 何それ』という感じだった。それがあの試合では本当に頭の中が真っ白になって。鼻っ柱をへし折られたというか、本当に悔しかったですね」

 地元愛媛から広島の強豪・如水館にスカウトされた浜田は、入学早々に強心臓で周囲を驚かす。当時の如水館野球部では1年生から3年生まで90人余りの部員全員が同じ部屋で寝食を共にしたが、浜田は初日から大いびきをかき、先輩たちから大ひんしゅくを買ったという。

「体育館みたいな広い部屋に2段ベッドが敷き詰められてて、1年のベッドは部屋の真ん中、上級生がそれを取り囲むような配置で。仕切るものはカーテンだけでプライベートな空間はたった1畳。カプセルホテルみたいな環境でした(笑い)」

 春の大会でいきなり結果を残し、1年生ながらベンチ入り。チームは広島大会を勝ち上がり、甲子園出場を決める。迎えた夏の大舞台、初戦の高知戦では不運な雨に見舞われた。2―0とリードしていた3回裏に、雨脚が強まりノーゲーム。翌日行われた再試合でも雨は止まず、6―5と勝ち越して迎えた5回表にまたも無情の仕切り直しが宣告された。“3度目の正直”で臨んだ再々試合では3―9で完敗。もし雨がなければ…そう思わずにはいられない結末だった。

「1日目はホテルに帰ったあと『勝ってたのになー』なんて軽口も叩いていましたが、2日目にはもうみんな疲れて愚痴を言う元気もなかった。3日目もホテルの周辺は小雨が降っていて、今日も中止なんじゃない…という不安があった」

 出番が来るとは思ってなかった浜田にも7回一死満塁で登板機会が巡ってきた。しかもカウント2ボール0ストライクから。火消しどころか押し出し四球に2連続適時打を許し、アウトを一つも奪えないままマウンドを降りた。このときの経験が闘志に火をつけた。

 3年夏、浜田はエースとして舞い戻った甲子園で躍動する。新聞紙上に「広島のせんとくん」の異名が躍った。「同級生で奈良出身の子がいて、ある日いきなり『せんとくんに似てるよね』って言われたんです。最初は何のことかわからなかった。チーム内で定着して、たまたまそれがテレビで流れちゃったんです」。ネット上ですぐさま作られた合成画像を、笑いながら見ていたという。

 高校卒業後は広島の社会人野球部でプレーを続けたが、廃部を機に地元の愛媛マンダリンパイレーツに入団。しかし、わずか3か月余りで引退を決意した。

「いろいろあったんですけど、一番は球団の方針が合わなくて。独立リーグでは高校や大学から入ってくる実績のない選手と、元プロの選手とが一緒にプレーをしている。元プロの方たちは話題になるぶん、どうしても待遇に差が生まれるし、実績のない選手はすぐに契約を切られてしまう。そこに違和感を感じてしまって」

 今ではユニホームを脱ぎ、祖父の代から続く真珠の養殖を手伝っている。「高校のとき、親に『後継がんでいいんか』と聞いたことがあるんです。父は『俺の代でやめるから、お前はそんなこと気にせんでええけん。野球頑張り』と言ってくれた。そのころから、24歳くらいにはケリをつけて、実家を継ごうと思っていた。うらやましいと思うことはあるけど、やり切った感じはあります」。一人前になるには10年、4年目の今は、まだまだ半人前だという。いずれは養殖業者にとって最高の栄誉、農林水産大臣賞を取ることが目標だ。

「アコヤ貝って繊細で、天候にも気を使わないといけないんです。風が強いと弱ってしまう。雨はそんなに影響ないですけどね(笑い)」

 悲運の雨天ノーゲームから8年。舞台がマウンドから海に変わっても、天候との闘いはまだまだ続く。

 ☆はまだ・ひろき 1993年5月7日生まれ、愛媛県宇和島市出身。小学4年時に石応(こくぼ)ジュニアでソフトボールを始める。城南中では軟式野球部に所属。如水館進学後、1年夏、3年夏と2度甲子園出場。3年夏はエースとして8強進出を果たす。高校卒業後は社会人野球のワイテックに入社。2015年、愛媛マンダリンパイレーツに入団するも3か月余りで退団。現在は実家の家業である真珠養殖の仕事を営む。173センチ、73キロ。左投げ左打ち。

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