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ミスターが惚れ込んだ名伯楽・石山建一氏の今 教え子に岡田、金森、宮本


練習中も笑顔が目立つ石山建一氏

【気になるアノ人を追跡調査!野球探偵の備忘録(49)】埼玉・秩父の山奥で、異色の経歴を持つ指導者が高校球児たちと汗を流している。かつて早大、プリンスホテルなどで監督を務め、岡田彰布氏や金森栄治氏、宮本慎也氏など、数々の選手を育成。その後は巨人の長嶋茂雄監督に請われ、巨人フロントに転身した。アマ球界の名伯楽・石山建一氏(75)の今を追った。

 埼玉県秩父郡の中にある自然豊かな町・小鹿野町に、石山が指導する小鹿野高校はある。全校生徒240人ほどで、野球部員は2人の女子マネジャーを含む20人。そのうち、地元出身者ではない生徒は8人もいる。

「小鹿野高校の特徴はなんといっても山村留学でしょう。地元ではない生徒たちは学校の近くの旅館に下宿し、そこから登校しているんです」(石山)

 小鹿野町では“町おこし”の一環として、「高校野球で町を盛り上げていこう」と、町内唯一の高校である同校の野球部を全面的に支援。区域外から来る生徒は地元の老舗温泉旅館の厚意で下宿ができ、のびのびとした環境で野球をすることができる。石山も、その計画のうちのひとつとして、指導力強化のため当時の監督の紹介で外部コーチとして招聘されることになった。

 石山といえば、プロ野球未経験者ながら巨人の編成本部長補佐兼二軍統括ディレクターを務めた異色の経歴の持ち主。球団の再編を目標とした長嶋監督が、球団スカウトを集めて評判の良い指導者は誰か尋ねたところ、全員が石山の名前を挙げたことが、選出の理由だった。

「『石山さんには編成の仕事だけでなく、二軍全体を見てほしい』と頼まれたんです。長嶋さん自らプリンスホテルの本社まで足を運んでくれたんです」

 長嶋氏から学んだことは、今も高校球児たちへの指導に生かされているという。

「長嶋さんは何より気持ちの切り替えが速い。あるとき、勝てたような試合を落としてしまい、さぞ落ち込んでいるだろう、と心配した日があったんです。でも翌日には何事もなかったかのようにあっけらかんとしていたんでびっくりしました。たとえば、大事な場面で打てずに落ち込んで帰ってくる打者がいたとします。翌日に『打てなくてすいませんでした』なんて謝りに来るんですが『え、そんなことあったっけ』と、とぼけるんです(笑い)。そうすると『あっ、監督は怒ってない。良かった、頑張ろう』と萎縮せずに練習に取り組むことができると思うんですよ」

 ただ、大学、社会人、プロを経験した百戦錬磨の石山でも、当時弱小だった同校野球部を立て直すのは容易ではなかった。

「就任当初の様子はひどかったですよ。部員は5人しかいませんでしたし、外野で投手が腹ばいになって腕相撲なんかをしていましたよ。『野球を好きになってほしい』と言うのが私の指導方針なので、最初から怒ったりせず、まずはキャッチボールだとか基本的なことを楽しんでやらせるようにしました」

 こうして毎年着実に実力を伸ばしていくと、ついに昨年の高校野球秋季埼玉大会の北部地区で優勝。「それまではチームの中に“負けて当然”という雰囲気がありましたが、今はかなり自信がついてきたと思います」と誇らしげに語った。

 そんな石山は“球場造りの名手”としての側面も持つ。西武ライオンズの発足当時、プリンスホテルの監督を務めていた際に、西武球場の設計アドバイザーに任命され、当時革新的な、さまざまな施設が一体型となった球場造りを進めた。

「まずは若手選手がすぐに練習にいけるよう、球場のそばに寮を設けました。それと同時に室内練習場と第2球場も造るようにしたんです。その理由として、たとえば後楽園球場の場合、雨が降ると時間をかけて多摩川グラウンドまで移動して練習していたんです。その時間がもったいない。(西武球場の場合は)雨が降ったら室内練習場にすぐ移動すればいいですし、試合のときはビジターチームに室内練習場を貸して、自分たちは第2球場を使えばいい。今では普及してますが、これは私のアイデアなんです」

 練習環境づくりのノウハウは、高校野球を指導する今の立場になっても生きている。

「私がここに来たときのグラウンドはひどかったですよ。雑草が深すぎてボールが見えなくなったりするので『これが本当の草野球だ』と皮肉ったもんです(笑い)。まずは練習以前に、練習できる環境を整えることから始めましたね」

 雑草抜きやグラウンド整備などを行い、一通りの練習環境が整うと、同校OBで工務店をしている方々などの協力を受け、ネット裏の観客席、屋根つきブルペンなどを次々と建設していった。

 実績、環境ともに整ってきた小鹿野高野球部。「これからも部員が分かるまで根気良く教えていきたいです。『最近の若い子は』なんて突き放す指導者もいるが、それは失格。理解するまで教え込むのが指導者ですから」。石山の指導の下“山村留学”の球児たちが甲子園の舞台に立つ日も、そう遠くはないかもしれない。(熊沢航平)

【プロフィル】いしやま・けんいち 1942年9月6日、静岡出身。名門・静岡高の3番・遊撃手として甲子園に春夏連続出場。早大では1年春から主に二塁手としてベンチ入り。日本石油で73年に現役引退後、早大、プリンスホテルの監督を歴任。岡田彰布氏や金森栄治氏ら数多くのプロ野球選手を輩出した。95年に巨人の球団編成本部長補佐兼二軍統括ディレクターに就任。現在は小鹿野高のほか、城西国際大でもコーチを務めている。

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