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キャッチボールを愛した男・吉田勝豊


王貞治、長嶋茂雄と写真に納まる巨人時代の吉田勝豊(手前から=1965年2月)

【越智正典「ネット裏」】春本番だというのに、3月9日、また見事な選手が逝った。

 

 吉田勝豊。佐賀県武雄高。監督濃人渉の日鉄二瀬。のちに、中日、東京(ロッテ)の監督になる濃人は、無名の選手を集めて鍛えていた。江藤慎一も代表的な一人である。

 

 その頃、羽田0時、板付AM4時で夜間飛行便があった。勤務をうまく組み合わせると筑豊の熱気の炭鉱野球を見に行けた。吉田はこの頃から仲間の顔を見ると「キャッチボールをやろう、やろう」。1957年、東映フライヤーズに入団すると益々、そうなった。私が見たかぎりだが、彼ほどキャッチボールが好きな男はいない。この吉田の姿を見習ったのが巨人、土井正三である。吉田はすぐに3番毒島、4番山本八郎、5番が彼でチーム最多打点。西鉄の鉄腕稲尾和久に強かったあー。

 

 LAドジャースでさわやかに活躍していた一塁手スティーブ・ガービーや、ペンギンちゃんことロン・セイは、頼まれると試合当日でも朝、少年野球教室の先生に行っていた。ギャラは10ドル。コーチしたのはまずキャッチボール。相手のベルトのバックルを目標に投げなさいと教えていた。真ん中低目。なるほどと感心した。日本では相手の次のプレーを考えて左胸に投げなさいと教えているが、ちびっ子にはむずかしい。このほうがよい。

 

 88回のセンバツが始まっているが、松井秀喜は星稜の3年生になると、キャッチボールを始める前に、グラブとボールを胸に当てて黙想していた。

 

 大学では亜細亜大、4番センター主将(横浜高)斎藤一也のすさまじいキャッチボール練習が忘れられない。90年、第39回全日本大学選手権。6月9日だったか、10日だったか。準決勝前日に、監督内田俊雄(現拓大監督)が亜大の練習を見に行くと、斎藤がナインに呼びかけ、2時間ぶっとおしでキャッチボールをやっていた。結集の気がみなぎった。

 

 6月12日。決勝の対東北福祉大。斎藤は4回に右中間にホームランを叩き込んだが、凄かったのはバックホーム。送球は低く、強く、2度にわたって走者を本塁で刺した。野球の華であった。2対1。亜大は大学日本一になった。

 

「きょうあたり、ワンちゃんが凄いキャッチボールをやりそうです。一緒に見ませんか」。後楽園球場での巨人―サンケイ(国鉄、ヤクルト)の朝、小阪三郎によく誘われた。

 

 小阪は職業野球が始まったときの名古屋軍の二塁手。50年、国鉄スワローズが発足すると連盟から実務指導のマネジャーとして派遣されていた。小阪は王貞治の打撃が少し下り坂、王はきっとキャッチボールで復調を計る…と推察していたのである。王は確かに試合前にキャッチボール。

 

 1時間も続けた。1時間半にも及んだこともあった。小阪は別れるときに決まって言った。

 

「きょうは目が幸福でした」=敬称略=(スポーツジャーナリスト)

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