公務員ランナーに明るい未来が見えてきた。世界最高峰シリーズ「ワールド・マラソン・メジャーズ」のボストン・マラソン(16日、米国)で初優勝した川内優輝(31=埼玉県庁)が19日に成田空港に帰国し、来年4月からプロに転向する意向を表明した。伝統のレース、ボストンを制したことで評価は「世界の川内」へと急上昇。安定した生活が保証される公務員とは真逆の環境に身を置く“大バクチ”の決断の裏にあったものとは――。

 大雨、強風、スタート時の気温3・3度の悪条件のなか、昨年の世界選手権覇者ジョフリー・キルイ(25=ケニア)らをかわしての偉業達成に、空港には多くの報道陣が出迎えた。

「(自分にとっては)天候に恵まれたなか、4人のメダリストを倒したことはうれしいと思う」と喜びを語ったが、優勝賞金15万ドル(約1605万円)の使い道を問われると「来年4月、公務員を辞めプロランナーに転向しようと思います。(勤務先の高校の)100周年記念行事を滞りなく行い、引き継ぎを終えたら、来年から世界の舞台に立ちたい」と語った。

 とはいえ、唐突な話ととらえたのはメディアや周囲の関係者だけで、川内自身には以前から思うところがあった。5年間自己ベストを出していないことで環境を変える必要性を感じていたことや、弟の鮮輝(27)がプロランナーに転向して刺激を受けていたことも無関係ではない。「弟のように人生をかけなければいけない。自分がトップランナーとして世界を回れるのは、あと10年、いや5年かもしれない。後悔したくない」と胸の内を明かした。

 通常プロになる選手はまずスポンサー探しに奔走する。しかし川内は「今回の優勝賞金(15万ドル、約1605万円)があれば、3、4年は活動できる。スポンサーが付いてくれればありがたいが、スポンサーに引きずられてうまくいかない選手もいる。積極的にマネジメントをつけることは必要ない」と言い切った。

 とはいえ、川内を周囲が放っておくはずがない。世界最高峰シリーズのボストンを制したことで評価はうなぎ上り。川内の海外レースをサポートするブレット・ラーナー氏は「伝統あるボストンの優勝は本当に価値があります。世界トップ選手と同じ。今までこのぐらい(180センチくらいを指す)だったら(成田空港の天井を指し)このぐらい」と表現した。

 もともと川内は世界でも人気ランナーで「ランニングしていても必ず『川内さんですよね?』と声をかけられる。市民ランナーだとみんな知っています。今はレジェンドですね。もう日本だけの選手じゃないんですよ」(ラーナー氏)と知名度は“ワールドクラス”であることを強調した。

 同氏の元へは多数の海外レースから参加オファーが殺到中。これまでは公務員のため出場料は受け取らなかったが、プロならば問題ない。レース参加だけでも資金のメドは十分に立つ。

 もう一つ、川内には「2020年東京五輪」についての注目も集まる。以前は、暑さに弱いということで選考レースに否定的な見解も示していたが「現時点では暑さや長期合宿など意欲が沸いてこないが(プロとして)集中していき、なにかできることがあると思えれば、自信を持って挑戦したいと思う」と気持ちの変化も見え始めた。

 次戦は22日のぎふ清流ハーフで、5月13日の仙台ハーフでは、2月の東京マラソンで2時間6分11秒の日本記録を更新した設楽悠太(26=HONDA)との直接対決が実現する。「プロランナー川内」は自分の意思を貫き、納得のマラソン人生を送るつもりだ。

【末弟は久喜市議選に立候補】川内は3人兄弟の長男で、弟たちもマラソンランナーとして活躍している。三男の鴻輝(こうき=25)は会社役員も務めており、22日の埼玉・久喜市議選に立候補している。市議選は市長選と同時実施で、27の議席を31人の候補者が争う。次男の鮮輝(よしき=27)は3月のサンスポ古河はなももマラソン(2時間20分24秒)、昨年6月の隠岐の島ウルトラマラソン・男子100キロで優勝している。