陸上の世界選手権(8月、英国・ロンドン)に臨むトラック&フィールドの代表選手が26日、日本陸連から発表された。日本選手権短距離2冠のサニブラウン・ハキーム(18=東京陸協)に注目が集まる中、存在感を高めているのが、男子100メートルのシンデレラボーイ・多田修平(21=関学大)だ。リオデジャネイロ五輪銀メダルのジャスティン・ガトリン(35=米国)を脅かした新星は、そのユニークな素顔でブレークの予感を漂わせている。

 日本選手権で2位に入り、代表入りを決めた多田は「まさかのこの短期間で世界選手権に出れると思っていなかった」と率直な思いを吐露した。

 1か月前は無名に近かった。脚光を浴びたのは5月21日のセイコー・ゴールデングランプリ川崎。抜群のスタートを決めると、有名スプリンターがひしめく中、10秒35で3位になった。レース後、ガトリンに「素晴らしいスターター。最初の10メートルは誰もが驚いたと思う」と言わしめた。

 ただ本人は恐縮するばかり。すっかり定着したロケットスターターの印象について「それは間違っているな」と笑って否定し「スタートより中盤のほうが得意。スタートの反応速度も並ぐらいの選手」と自己分析。日本選手権でもスタートの反応時間は、ケンブリッジ飛鳥(24=ナイキ)と並び2位タイだった。

 関学大の竹原純一監督(66)は多田の魅力をこう話す。「素直です。裏表もない。いつもニコニコしている。純粋の関西人ですよ」。この混じり気のない性格が強さの秘密だ。2月には米国で元世界記録保持者のアサファ・パウエル(34=ジャマイカ)と練習し「スタートで体力をロスしている」と助言されたという。競技力の大幅な向上の裏にはスポンジのような卓越した吸収力がある。

 多田本人は自身の性格について「明るいキャラクター」と解説。笑顔を絶やさず、陽気な雰囲気はムードメーカーに適任だ。普段はインドア派で「試合が終わってから誰とも会ってない」。リフレッシュ方法は「寝ることが大好き」。プレッシャーに強いところも含めて、サニブラウンとの共通点は多い。

 6月10日の日本学生個人選手権では追い風4・5メートルの参考記録ながら9秒94をマーク。世界選手権は初だが、何も知らないところが武器になる可能性もある。日本陸連の伊東浩司強化委員長(47)は「多田君は今、勢いに乗っている。思い切ってやってもらいたい」と大暴れを期待。日本人初の9秒台を成し遂げるのはこの男かもしれない。