結局、この騒ぎは何だったのか。13日の名古屋ウィメンズマラソンに一般参加でエントリーしていた福士加代子(33=ワコール)が欠場することが1日、主催者から発表された。8月に行われるリオデジャネイロ五輪の代表選考レースだった1月の大阪国際女子マラソンを好記録で制したが、代表の座が確実でないとして最終選考レースの名古屋参戦を決め、異例の強行日程から波紋を呼んだ福士。五輪イヤー恒例と化したマラソン代表選びの“混乱”では、日本陸連の選考基準も改めて問われる格好となった。

 大会実行委員会によれば「チームとしてのケーススタディーによる総合的判断の結果」が欠場理由。これについて福士を指導するワコールの永山忠幸監督(56)は「いろんなものを考えた時に、我々の名前が代表に残るだろうと総合的に判断した。やるべきことはやった」と説明した。

 名古屋回避を求めていた日本陸連側では、尾県貢専務理事が「大阪国際での身体的なダメージを考えると、今回の判断は的確だと思います。まずは疲労を抜き、万全の状態で次の目標に向けて再始動してもらえれば」とのコメントを出し、歓迎の意を述べた。

 大阪国際で、リオ五輪に向けた陸連の設定記録2時間22分30秒を現時点でただ一人クリアする同22分17秒をマークして優勝した福士。自ら「リオ決定だべ」と言いながら大会後、永山監督は「九分九厘じゃダメ」だとして名古屋参戦を表明し、先週まで「出ます!」と明言していた。

 この間、陸連の麻場一徳強化委員長が「本番でメダルを目指す盤石の態勢を整えてほしい」と報道陣に話したが、永山監督が言う“一厘”が埋まる内定示唆があったワケではない。それだけに、ここにきての翻意は違和感と不可解さも残した。

 もともと周囲から「無謀」と忠告されたなかでのチャレンジだったとはいえ、世間はその言葉を信じた。欠場発表を受けてネット上には早速「口だけか」「駆け引きに憎悪を感じる」といった福士に辛辣な反応も寄せられた。

 そもそも陸連のリオ五輪マラソン代表選考基準に「内定」の項目があるのは、昨夏の世界選手権北京大会での「8位以内入賞者で、日本人最上位者」についてのみ。これに該当するのが7位入賞した伊藤舞(31=大塚製薬)で、国内3大会の選考レースでは、好走でも形式上は「内定」を得られない。それは福士側も分かっているはずだが、にもかかわらず陸連側から内定に相当する心証を得ようとしたのが今回の問題の“発端”とも言える。

 女子マラソンの五輪代表選考をめぐっては、世界選手権4位の有森裕子と好記録を持つ松野明美が“最後の1枠”を争う形となった1992年バルセロナ大会以降、恒例のごとく選考基準の“あいまいさ”が指摘されている。北京世界陸上の代表選びでも、選考レース優勝者が落選して論争を呼んだばかりだ。

 同じくロードレースもある競歩では、派遣設定記録を破った国内選考会の日本勢トップは自動的に代表に決まる選考方式がとられた。今回の問題で「各選考競技会での記録、順位、レース展開、タイム差、気象条件等を総合的に勘案し、本大会で活躍が期待されると評価された競技者」という陸連の裁量に左右される基準に改めて疑問がぶつけられる格好となった。

 さらに、一連の経緯における陸連側のコメントも事態を混乱させたという。「本番への準備」といった発言を、ある陸上関係者は「いらぬことを言った」とバッサリ。本紙でも既報したように、福士が名古屋出場を撤回したら“裏取引”があったとの臆測も呼びかねない。

 選考にまつわる発言自体、ほかの選手らを疑心暗鬼にさせるため、口を慎むべきだというのがこの関係者の意見だ。

 結局、騒動で株を上げた人物は皆無で、誰も得をしない結果に…。男女各3枠あるマラソン代表は17日の陸連理事会で決まる。