陸上の織田記念国際最終日(19日、エディオンスタジアム広島)の男子100メートル決勝で桐生祥秀(19=東洋大)は10秒40で2位。黄色人種初の9秒台どころか、レース後は「スプリンター地獄」への突入を懸念する声も上がるほどの完敗を喫した。屈辱の裏には何があったのか。

 3月のテキサス・リレーで追い風参考記録ながら9秒87をマーク。現役日本最速の男が頂点から一気に谷底に突き落とされた。前日(18日)の200メートル3位に続き、2位。優勝をジャマイカ人とのハーフのケンブリッジ飛鳥(21=日大)にさらわれ、桐生は「悔しいだけ」と肩を落とした。

 悪条件が重なった。日本屈指の高速トラックには雨が降り注ぎ、向かい風0・2メートルと風にも恵まれなかった。ライバルの山県亮太(22=セイコーHD)、高瀬慧(26=富士通)は不在。さらにスタートが仕切り直しになり、出遅れた桐生は見せ場すらつくれず…。歴史の目撃者になろうと集まった大会最多タイの1万5000人の大観衆と約250人の報道陣は沈黙した。

 自身が強く望んだ200メートルへの出場が裏目に出た。100メートル日本記録保持者の伊東浩司氏(45)は「200やった後、100は無理。走り方が全く違う」と解説。指導する土江寛裕コーチ(40)も「200の影響は少なからずあった」。通常200メートルは100メートルの後に行われる。順番が逆だったことも敗因の一つ。桐生は8月の世界選手権(北京)で200メートル出場を予定しておらず「200をやる意味があったのか。事前に『やめたほうがいいんじゃないの』という話は(桐生陣営と)繰り返ししました」と日本陸連関係者は悔やんだ。

 誇り高きエースが屈辱の連敗。伊東氏は桐生の今後について「パカッとはまるケースもあれば、『スプリンター地獄』といってどんどん地獄にハマっていくケースもある。1回崩れると、どんどんみんな崩れていっちゃうので」と懸念も口にした。果たして、失意の桐生は立ち直れるのか。