【陸上日本選手権】桐生6年ぶりV 原動力はコロナ禍での逆転の発想 マスク&ボクシングトレ

2020年10月03日 11時30分

桐生祥秀

 陸上男子短距離をけん引するのはやはりこの男だ。日本選手初の100メートル9秒台をマークした桐生祥秀(24=日本生命)が、2日の日本選手権(新潟)100メートル決勝で10秒27(向かい風0・2メートル)をマークし、6年ぶり2度目の優勝。タイムよりも結果にこだわったスプリンターは、新型コロナウイルス禍で思い通りの調整ができない中でも“逆転の発想”で調整。さらには意外なトレーニングも敢行し、走りに磨きをかけていたという。

多くのファンが待ち望んだ“9秒台決着”とはならなかった。桐生は前半、隣のレーンの多田修平(24=住友電工)に先行されるも焦ることなく加速。最後はケンブリッジ飛鳥(27=ナイキ)を僅差で破って頂点に立った。レース後は納得のタイムではなかったこともあり「また速さと強さを兼ね備えて帰ってきたい」と振り返った。

 ただ最近は記録よりも勝つことに重点を置いてきた。国立競技場を舞台にした8月のセイコーゴールデングランプリでは10秒14で優勝したが「勝ち切れたのが思い出になった」と話しており、この日も「決勝は流れよりも勝ち切ることが大事」と言い切った。

 今季は新型コロナウイルスの影響で、3月に遠征先のオーストラリアから予定を早めて帰国。その後も緊急事態宣言が発令されると、練習や競技会のスケジュールが大幅に変更となった。

 桐生に限ったことではなく、ほとんどの選手に狂いが生じたが“元祖9秒台男”はピンチをチャンスと捉えた。自粛期間中は自宅近くを走ることが多く、時間帯も午前5時前後、午後9時以降と人との接触が少ないタイミングを選んだ。また、マスクを着用したまま「心肺機能を高めようと考えながら走っていた」と話す。

 一方で、コロナが深刻な問題となる前には、ユニークなトレーニングも行っていた。日本オリンピック委員会関係者が証言する。「桐生がトレセン(味の素ナショナルトレーニングセンター)の陸上競技場で練習していたとき、走り込みが終わったかと思ったら、今度はボクシンググローブを持ってパンチを打ち込む練習をしていてね。どうやら腕を振ることに通ずるようだ」。なんと、ボクシング流のパンチを放つことで腕や肩甲骨の周囲といった上半身を鍛え、自らの走りに磨きをかけていたという。

 日本選手権のタイトルからは遠ざかっていたが「それだけ逆に注目してもらっていたということ」とプロスプリンターとしての自覚も強くなった。来夏に延期となった東京五輪で自己ベスト(9秒98)更新の期待も日に日に高まっている。

【男子100メートル決勝】新潟・デンカビッグスワンスタジアム

①桐生祥秀(日本生命)10秒27

②ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)10秒28

③小池祐貴(住友電工)10秒30