【どうなる?東京五倫・パラリンピック(99)】日本の新聖地は“レコード・スタジアム”となるのだろうか。陸上のセイコーゴールデングランプリ(23日)で、注目の男子100メートル決勝は桐生祥秀(24=日本生命)が10秒14(向かい風0・2メートル)で優勝した。1年延期された東京五輪の会場・国立競技場(新宿区)で初の陸上競技会となったが、予想以上に好記録が続出。モンド社(イタリア)が開発した高速トラックを実際に走った選手は何を感じたのか。生まれ変わったスタジアムを追跡した。

 昨年11月に完成した国立競技場はすでにサッカー、ラグビー、五輪イベントなどで使用されたが、陸上の競技会場となるのは今回が初めて。それに加えて新型コロナウイルス禍ということで感染防止策も徹底され、主催者サイドも試行錯誤しながらの開催となった。

 こうして無観客で行われた大会だが、特に熱いバトルを繰り広げたのはトラック種目。男子100メートルでは予選3組に登場した桐生がケンブリッジ飛鳥(27=ナイキ)と並走しながらも10秒09(追い風0・7メートル)の好タイム。同1位で通過した決勝は10秒14でライバルとのデッドヒートを制した。風が1メートル違えばタイムは0・1秒変わると言われることを考えると、仮に予選と同じコンディションなら9秒台に迫る10秒0台前半のタイムとなっていたはずだ。

 また、女子1500メートルに出場した田中希実(20=豊田自動織機TC)は4分5秒27をマークし、2006年の小林祐梨子以来、14年ぶりに日本記録を更新。先月の中長距離チャレンジ大会の3000メートルで日本新を出した伸び盛りの選手とはいえ、1500メートルで2秒以上縮めての新記録樹立は驚異的だ。

 競技会はコロナによって中止や延期が相次ぎ、最近になってようやく再開したばかり。自粛期間は思い通りのトレーニングができない日々も続いたはずだが、意外にも好記録が続出したのは会場の“アシスト”もあったといえそうだ。

 男子200メートルで優勝したリオ五輪400メートルリレー銀メダルの飯塚翔太(29=ミズノ)は「(トラックは)硬いけどしっかり反発がもらえるような感触だったので、走りやすかった。室内よりも走りやすくて、硬いけどはねるような感じだった」と振り返る。

 女子100メートル障害日本記録保持者で同種目優勝の寺田明日香(30=パソナグループ)は「すごく走りやすいなと思いました。まだまだ私の技術が伴っていないので使いこなせていないんですけど、すごく反発があって気持ちよく走れました」。“別ジャンル”の男子走り高跳びに出場した戸辺直人(28=JAL)までも「硬めで走りやすいというか、高跳びの助走でいえば頑張らなくても進むという感じ」と話すほどだ。

 そもそも「新国立」が採用するモンド社のトラックは、弾力の強いゴムを使用した上層部とハチの巣のように正六角形の穴が並べられた下層部の2層仕様が特長。世界記録を約7割生み出したといい、「高速トラック」と評されてきた。

 ある陸上関係者は今大会の結果について「コンディションや選手の状態が良かったのが大きいと思う」としつつも「もしもボルトが全盛期にここで走ったら、9秒58どころじゃなかったかもしれないね」。ウサイン・ボルト氏(34=ジャマイカ)なら09年に叩き出した自身の100メートル世界記録を簡単に塗り替えたかも…というからには、もはや「ウルトラ高速トラック」と言っていい。


 今後も好記録の予感が漂うスタジアム。来年の五輪は新型コロナ禍で開催が不透明とはいえ、無事に開催されれば新たな“超人”が現れる可能性は高そうだ。