やはりマラソンに「ワンチーム」を求めるのは無理な話なのか。東京五輪マラソン男女代表最終選考会の「びわ湖毎日」と「名古屋ウィメンズ」を終え、マラソンの男女代表3人ずつが出揃った。日本陸上競技連盟(陸連)幹部は五輪に向けて一致団結を強調して今後の強化に自信を見せたが、内定会見では出鼻をくじくような“事件”が勃発。選手にとって晴れの舞台で、一体何が起こったのか――。

 12日に陸連が行った男女代表内定選手の記者会見は、選手にとっての「出陣式」。男子代表の服部勇馬(26=トヨタ)は「夢だった舞台。自分自身、最大のパフォーマンスを発揮することだけを考えて走りたい」と意気込みを語った。

 しかし場内には、どこか集中しきれない空気が流れていた。男子は他の代表内定者2人、大迫傑(28=ナイキ)、中村匠吾(27=富士通)が欠席。しかもその連絡がメディア各社に送られてきたのは前日(11日)の夜で、全選手揃っての会見だと思っていたメディアは肩透かしを食らった格好になった。

 当然、報道陣からは2人の欠席理由を問う声が噴出した。これについて河野匡マラソンディレクター(59)は「中村選手に関しては直前まで出る予定だったが、所属の経営陣からストップがかかった」と説明。所属の富士通が全社員に対して新型コロナウイルス対策を取っており、それに従った形だという。

 だが続けて「大迫選手は他の仕事が入っていた」と話すと一気に場がヒートアップ。ナショナルチームの一員として、会見も立派な仕事のはずで、選手はそれぞれの拠点で強化するため、一堂に会するのは貴重な機会。困惑する河野ディレクターは「仕事の内容までは分からない」と話すにとどめ、欠席の2人に関して別に機会を設ける調整に入るとしたが…。

 さらに首をかしげたくなるのが、内定者とともに補欠の男女4選手が出席していたこと。「ワンチーム」をアピールする狙いもあったのだろうが、補欠選手だけでなく、一緒に並んだ内定選手にとっても胸を締めつけられるような時間だった。

 8日の名古屋ウィメンズで一山麻緒(22=ワコール)に記録で追い抜かれて、補欠選手に回った松田瑞生(24=ダイハツ)は、さらなる目標を聞かれ「正直なところまだ整理がついていないので…」と声を詰まらせ、大粒の涙をこぼした。しばらく沈黙した後「再スタートが切れるよう気持ちを戻して、またチャレンジしたいと思います」と声を絞り出すのが精一杯。しかも、席の並びは一山の隣。あまりにいたたまれない姿に、ネット上は「無神経すぎる」など陸連への批判のコメントであふれた。

 本番まで5か月を切った。河野ディレクターは「一日一日を大切にして臨みたい」と語ったが、陸連としては最も大切にすべき一日をある意味、台無しにしてしまったのかもしれない。