前代未聞の事態だ。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、約3万8000人がエントリーしていた都会の祭典「東京マラソン」(3月1日)が一般ランナー抜きで実施されることになり、波紋を広げている。東京五輪出場を目指す選手ら約200人のエリートランナーのみで争われるが、出場できなくなった一般ランナーは参加料の「返金ナシ」に怒り心頭。当日は沿道が封鎖される案も浮上しており、主催者サイドは対応にてんやわんやで、ドタバタ劇はまだまだ続きそうだ。

 東京五輪の札幌移転、厚底シューズ問題に続き、またもマラソン界が大騒動に巻き込まれた。

 本番まで2週間を切る中、主催の東京マラソン財団は大会史上初めて一般ランナーの参加を取りやめ、マラソンエリートおよび車いすエリートの部のみの開催を決定した。今月末の各種イベントも中止となり、共催する東京都の小池百合子知事(67)は「当選して喜んだ一般の方々には申し訳ないが、縮小もやむを得ない」と競争率11倍を勝ち抜いた参加者を思いやった。

 その理由について同財団は本紙に「都内でも感染者が拡大し、大きく局面が変わってきました。確実に安全性を確保しながら実施するのは困難ということで、財団内で会議を行って日本陸連さん、東京都さんの了解を得て決めました」と経緯を説明した。14日には中国在住者の来年の参加料免除を発表していたが「今回の決定は全ランナーが対象。中国在住者の参加料については再度検討している」と語った。

 怒りが収まらないのは一般ランナーたちだ。来年の大会の出場権は与えられたが、参加料1万6200円の返金はナシ。しかも来年出場する場合は別途参加料が必要となるのだ。エントリーしていた千葉県在住50代男性は「こっちは厚底シューズを新調し、記念Tシャツの代金も支払い済み。せめて参加料は返してほしい」と痛切に訴える。

 ただ、同財団は返金ナシの理由を「募集要項のエントリー規約に基づく」と明記。実際に規約を見ると、返金の条件に「大雨」「強風」「落雷」「竜巻」「戦争」「テロ」などの文字はあるが、「ウイルス」の記載はない。「関係当局の中止要請を受けた場合」も返金されるとあるものの、同財団は「財団内の会議で決定した」と主張しているだけに、涙をのむしかない状況だ。

 このため、一般ランナーたちから「決断が遅すぎる」「開催自体を中止すべき」などの声が噴出。なかには「エリート選手だけで開催するから返金できないのか」と指摘する者も…。

 課題はまだある。当日の沿道に人があふれたら、感染の危険度もアップする。同財団は「医療従事者など専門家の意見を参考にし、対策チームで協議していく」と言い、場合によっては沿道を完全封鎖して“無観客レース”にする可能性も出てきた。

 こうなると、残り半年を切った東京五輪がいよいよ心配になってくる。今回の決定により、連鎖的に競技会中止が相次ぐことは必至。大会組織委員会は「東京マラソン一般の部中止についてはプレスリリースの発表を通じて承知しています。引き続き、安心で安全な大会開催に向けて関係機関等と密接に連携していきます」とコメントしたが、春先まで感染拡大が収まらなければ、五輪史上最悪の「中止」もあながちデマや冗談では済まなくなりそうだ。