【パラヒーローズ】陸上・井谷俊介 みんなの笑顔を取り戻すために走る!!

2020年01月24日 11時00分

井谷はカーレーサーの道もあきらめていない

【東京2020 パラヒーローズ 見据える先に描く夢とは(2)】異色のスプリンターが挑戦を続けている。パラリンピック連載「パラヒーローズ」第2回は、パラ陸上転向後、わずか10か月でアジア新記録(11秒70)をマークした男子100メートル(T64)の井谷俊介(24=SMBC日興証券)が登場。プロのカーレーサーを夢見ていたが、なぜもう一つのオリンピックを目指すようになったのか。

「今まであった足がないわけですから、それだけで喪失感というか、初日は言葉とかも発せられなかったです」

 カーレースに熱中していた大学2年の冬、悲劇が襲った。バイク事故に遭い、右脚膝下を切断した。当然、周囲のショックも大きく「友人たちは僕がバイクでこけて脚の骨を折ったんだって感覚で(お見舞いに)来ちゃうんですよね。そうすると、脚のない僕の姿を見て、男の子たちでも涙を流していました。みんなが僕を励まそうと思って来たのに、逆に僕がみんなの元気を奪っていた。そばにずっといた母親も本当にしんどそうな顔をしていた」。

 だからこそ、必死に前を向いた。「みんなの笑顔を取り戻すために、何をどうしたらいいのかって考えるようになった。くよくよしないように、自分を強くしようと思った」

 事故から2か月後、井谷に大きな出会いがあった。大好きなカーレースに復帰するつもりだったが、母親の勧めで参加した陸上教室で、パラ陸上の魅力に取りつかれたのだ。「義足をつけて初めて走った瞬間、みんなから奪っちゃった笑顔を取り戻すためにも、パラリンピックに出るのが一番じゃないかなと思った」。義足が100万円以上するため、最初はちゅうちょした。それでも周囲のサポートもあり、パラ陸上の世界に足を踏み入れた。本格参戦後は驚異的な成長を遂げているが「タイムを10秒台に入れないと(パラリンピックの)決勝で上位に残れない。そこを目指して、この冬は鍛えて改善していきたい」とさらなる高みを見据えている。「当時、障害者になって、落ち込んでいる時期にスポーツの力で前向きになれた。その感覚をみんなにも知ってもらいたい」。恩返しの思いを胸に、井谷はトラックを駆け抜ける。 

 ☆いたに・しゅんすけ 1995年4月2日生まれ。三重県出身。カーレースに熱中していた大学2年の2016年2月、バイク運転中に事故に遭い右脚膝下を切断。その後、陸上教室で、パラ陸上に出会う。昨年11月には、アジアパラ競技大会男子100メートルで優勝。東京パラリンピックでもメダル候補として注目を集めている期待の新星。パラ陸上に励む傍ら、プロのカーレーサーになる夢も追い続けている。180センチ、73キロ。

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