緊急事態だ。2020年東京五輪開幕まで残り約9か月となったところで、国際オリンピック委員会(IOC)は16日、猛暑を理由に陸上のマラソンと競歩を東京から札幌開催に変更する代替案の検討に入ったと発表した。突然の発表に関係各所は「寝耳に水」の大騒ぎ。注目はこのところすっかり影の薄くなった小池百合子都知事(67)がどう動くか、だ。開催都市のトップとして、あっさりIOCの提案を受け入れるのか、それとも――。

 かねて東京の夏の暑さ問題は指摘されてきた。今年も昼は最高気温35度オーバーが当たり前、夜になっても25度を下回らない熱帯夜が連日続いた。

 IOCと大会組織委員会は暑さ対策として招致段階の計画からスタート時間を前倒しし、男女マラソンは午前6時、競歩の男子50キロは5時半、男女20キロは6時に変更した。しかし、6日に中東ドーハで閉幕した陸上の世界選手権では、深夜スタートのマラソンや競歩でも高温多湿の条件で棄権者が続出。五輪を不安視する声が強まっていた。

 そんな中、IOCが異例ともいえる開催都市変更を提案してきたのだが、JOC(日本オリンピック委員会)など関係各所は「寝耳に水」と驚きを隠せない。IOCはすでに日本陸上連盟に通知したとされるが、この仰天プランを事前に伝えられていた関係者は上層部のごく一部だったようだ。事情を知っていたとみられる幹部を直撃すると「その件に関しては私の口からは言えません。広報を通していただければ…」とやや狼狽して答えた。

 本当に実現に至るのか? 本紙は16日夜、札幌市スポーツ局国際大会担当部東京五輪担当課に問い合わせた。電話に出た安田聡課長(55)は「午後7時ごろのネットニュースで初めて把握したばかり。大変、驚いています。IOCや組織委員会からは何も聞いていません」と案の定、困惑の様子だ。

 しかし、いくばくかの“勝算”もある。なぜなら札幌市は東京五輪サッカーの開催地になっているからだ。開催日程は来年7月22~29日、男女サッカー1次ラウンド計10試合が札幌ドームで行われ、その準備に当たっているのが前述の担当課。安田課長が「私どもは東京五輪のイメージというのは持っています」と言うように、非開催地よりノウハウがあるのはプラス材料といえるか。

 16日午後10時前、組織委は「選手の健康は、組織委にとっても最重要事項。東京都とも連携し、関係者と議論する」との談話を出した。

 アスリートファーストこそが重要視される中、東京都の小池知事は「唐突な形で発表され、このような進め方は大きな課題を残す。コースなどは関係機関と協議して決定しており、驚きを感じる」と変更を疑問視するコメント。都として暑さ対策を講じてきた自負もある。知事自ら「打ち水」と「首元の濡れタオル」をドヤ顔で推奨したこともあった。

 政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「彼女はスポットライトが当たると張り切るタイプ。そして頭が良い。来年には都知事選もある。いまはまだ風を読んでいるところだろう」と話す。

 コメントからすると、IOCに抵抗しそうな気もするが、鈴木氏はこうも付け加える。

「彼女は当初『復興五輪』を提唱し、東北に一部の競技をもっていこうとしたが、実現できなかった。そこから彼女はパラリンピックに力を入れるようになった。パラを東京で成功させることで、高齢化社会へのレガシー(遺産)になるという考え。『パラも札幌で』となれば体を張って止めるだろうが、オリンピックならば6:4から7:3くらいの割合で札幌移転を容認してもおかしくない。ああ見えて、現実主義者ですから」

 9月に本番とほぼ同じコースで行われた代表選考会「マラソングランドチャンピオンシップ」に関し「日本人選手が事前に走ったというアドバンテージがなくなる」という指摘もある。

 チケット購入者も気が気ではない。すでにスタートとゴール地点の新国立競技場のチケットは売り出されており、札幌開催ならば、泣く泣く観戦を取りやめる人も出てくるかもしれない。

 いったい、どうなるのか。